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先進校レポート

立命館宇治中学校・高等学校 国際教育担当教頭 東谷保裕 先生

立命館宇治中学校・高等学校は、京都府にある中高一貫校である。1994年に宇治高等学校から立命館宇治高等学校に改称。2003年に中学校を開校して中高一貫校になった。2000年にイマージョンプログラム・コースを設置し、2002年には文部科学省からスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)の指定を受けた。そして、2009年、国際バカロレア機構より関西初のIBディプロマ・プログラム実施校として認定されている。現在、IBディプロマ・プログラムを提供している一条校(教育基本法で定める学校)は国内に5校しかない。その中でも着実に成果を上げている学校として、いま全国の教育関係者から注目されている。
国際教育担当教頭の東谷保裕先生に話を聞いた。

今年、IBコースの2期生が卒業しましたね。

2013年3月に卒業したIBコース2期生15名のうち、12名がディプロマ(DP)を取得しました。DP合格率も平均点も世界平均を上回っており、一定の成果を上げたと言えます。また、英国のエディンバラ大学、カナダのトロント大学やブリティッシュ・コロンビア大学など海外の有名大学に多数合格しました。国内でも立命館大学はもちろん、大阪大学や早稲田大学、国際基督教大学など有名国公私立大学に合格しており、卒業生たちの実力が発揮できたと思います。

IBコースでは、どのような教育を行っているのですか。

IBディプロマ・プログラムは、高2・高3の2年間のプログラムです。本校では、高1のPre-IBプログラムと合わせて3年間のコースにしています。IBディプロマは、世界のトップ大学が認める国際カリキュラムです。6つの教科群(第一言語、第二言語、個人と社会、実験科学、数学、芸術)と3つのコア(TOK=知識の理論、CAS=創造性・活動・奉仕、EE=課題論文)で構成されており、日本の学習指導要領とは異なる国際標準のカリキュラムです。日本語(国語)科目以外は原則として英語で授業を行っています。

高校入学の時点で高い英語力が求められますね。

確かに、ほとんどの授業を英語で行いますので、一定の英語力は求められます。8割が海外からの帰国生ですが、本校の中学校からの内部進学者も年々増加しています。中学では、IBコース進学希望者を対象としてIPSコースを設置しています。このコースは、英語はもちろん数学や理科なども英語で授業を行っています。これは、中高一貫校としてのメリットですね。

本校には、IBコースとは別にIMコースがあって、こちらはイマージョン教育を行っています。IMコースでは、高1から高2にかけて1年間の海外留学が必修になっています。留学後は、国語以外のほとんどの教科で英語による授業を行っています。こちらは、留学経験で飛躍的に英語力が伸びますので、入学時に英語力がそれほど高くなくても大丈夫です。

話をIBコースに戻しますが、IBコースでは、どのような力が身につくのですか。


国際教員室にはネイティブの先生が常駐している

まずは、高い探究型学力が身につきます。たとえば、コミュニケーション力・英語力、クリティカルシンキング(批判的思考力)、クリエイティブシンキング(創造的思考力)、分析的思考力、プレゼンテーション力などです。そして、異文化に対する理解と思考の柔軟性や主体性ならびに強いリーダーシップも身につけることができると考えています。

IBには、目指している学習者像(Learner Profile)というものがありまして、本校でもそれらを教育の目標に据えています。①探究する人、②知識のある人、③考える人、④コミュニケーションができる人、⑤信念を持つ人、⑥心を開く人、⑦思いやりのある人、⑧挑戦する人、⑨バランスのとれた人、⑩振り返りができる人、の10の項目で表されています。

3つのコアは、日本のカリキュラムにはない独特なものですね。

論文(Essay)を書く力は、自分の考えをまとめて表現するという意味でもグローバルに求められる力です。欧米の大学入試では、自己アピールのEssayが課せられます。論文を書く力とともに、自分をアピールする中身がなければなりません。そこでCASが大切になります。自分で計画を立てて課外活動をするのですが、他の人とは異なる体験や秀でた実績をあげる活動が必要となります。

TOKはどのような授業なのですか。

IBの学習の特色は、授業の中でディスカッションなどをしながら自分で考える探究型のスタイルをとっていることです。それを支えるのがTOKです。前述したクリティカルシンキングなどを身につけるためにも重要な授業です。授業は、一見すると哲学のような内容です。一つの正しい答えがない問いを出して、生徒同士でディスカッションをします。テーマはサイエンスもアートもあります。

授業以外の活動も充実していますね。


生徒は気軽にネイティブの先生に質問をしている

行事や課外活動も充実しています。グローバルという観点では、世界水準の学びを体験できるプログラムを多数用意しています。たとえば、グローバル・チャレンジ・プログラム(GCP)は、世界各国で開催される国際会議などに生徒を派遣するプログラムです。世界中の生徒と議論や交流を行い貴重な国際経験を積むことができます。

また、国際高校生フォーラム(ISF)は、世界中から高校生を立命館宇治に迎え、世界的な問題について一緒に学ぶイベントです。2011年度に開催したISFでは、世界12ヶ国・地域から80名もの高校生が本校に集合し、本校生徒を含め200名が「エネルギー政策」、「環境と海洋」、「都市の未来像」、「21世紀における進歩」、「多文化共生」といったテーマで議論しました。


広大な敷地にはナイター設備付きの人工芝のグラウンドがある

生徒にとっては貴重な体験ですね。

貴重な体験というだけでなく、自分たちで企画し運営することで、終わったあとに大きな達成感を味わうことができます。この達成感とその経験による自己肯定感がとても大切だと考えています。

グローバルに活躍できる人材を育てるためには、IBのカリキュラムがとても有効ですが、それだけではなく、これらの本校独自のプログラムがとても重要だと考えています。たとえて言うなら、IBが生命に必要な栄養源を与えてくれているとすれば、独自のプログラムはその栄養を活力あるものにするエクササイズのようなものです。それがあってはじめて生徒たちに実効性のある力が身についているのだと思います。

その他にグローバル人材に必要だと考えているものはありますか。

実際に外国の方々と一緒に働くような場面を考えると、重要なのは自国のアイデンティティです。その意味では、本校が京都にあるということは強みですね。実際にCASの活動で、京都の禅寺で奉仕活動をした生徒もいます。枯山水の庭園の整備をする体験なんてなかなかできないことです。そういうことを通じて、日本の歴史や文化について深く学んでほしいと思います。

最後に、東谷先生が考えるグローバル人材とは何か、お考えをお聞かせください。

私は、グローバルといっても、必ずしも海外で働くということだけを考えていません。世界や地球全体を視野に入れて行動できる人がグローバル人材だと思います。本校を卒業して海外の大学に進学する生徒も多いですが、私個人の希望では、日本に帰ってきて日本のために働いてほしいと思っています。日本のために地球規模で考えて活躍できる人を育てられたらいいなと思っています。

ありがとうございました。

いま注目されているIB。立命館宇治はその先進校ということもあり、東谷先生は引っ張り凧で常に多忙。実際に、この取材の数日後にアラブ首長国連邦のアブダビに出張予定だとおっしゃっていた。

立命館宇治には約30名のネイティブ教員がいるが、そのマネジメントをするのも東谷先生の役割。多国籍、多文化の教員集団をまとめるのに、最初は苦労したと言う。しかし、いまは上手くまとまって最高のパフォーマンスを出せる教員集団になったとのこと。そのようなマネジメントができる人が真のグローバル人材というのだろう。やはり、教員や学校がグローバルでなければ、グローバル教育はできないことを実感した。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之
2013年10月取材

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