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先進校レポート

南山高等学校・中学校女子部 海外研修委員会委員長・英語科教諭 中島先生

 愛知県名古屋市にある、南山高等学校・中学校女子部は、1948年(昭和23年)に設立されたカトリック系のミッションスクールです。
 「高い人格」「広い教養」「強い責任感」という三つの校訓のもと、視野の深まりと広がりを育み、心豊かに生きる人間へと成長していけるように、「真の教養」を育むことを目指したカリキュラムが行われています。
 経験したことのない「異質なもの」との出会いを喜び、自ら進んで異なる文化に触れ合うことにより、視野を広げ人間性を豊かにしていく「国際的な視野の育成」を掲げた同校の国際教育について、海外研修委員会委員長・英語科教諭の中島正喜先生にお話をお伺いしました。

貴校が掲げる、国際的視野の育成について教えてください。

海外研修委員会委員長・英語科教諭 中島正喜先生

 本校では、英語を話せることや、海外に行ったことがあるということを、「グローバル」とは呼んでいません。これまでとは異なるものに出会って、自分自身を成長させられる環境・状況や、自分とは違う考え方などに触れて、新たに視野を広げ人間性を豊かにする環境・状況に積極的に身をおいて、自身を成長させていくことが「グローバル」であり、本校の掲げる「国際的視野の育成」です。

 自分の世界にこもってしまうと、他人との出会いが減ってしまいます。また自分の考え方に固執してしまうと、他人の素敵なアイデアを受け入れられなくなります。他者や異なる考えとの出会いを通じて、これまでの自分とは違う自分を恐れず、勇気を持って受け入れられるようにすることこそ、「国際的視野の育成」と考えています。

 本校では海外に住んでいたことのある生徒が多くいますが、英語が堪能であることについては、特に重要視していません。英語はあくまで、コミュニケーションツールでしかないと考えています。もちろん、英語を話せる方が、深い部分で世界の人たちと考えを共有しあうことができるようになりますが、本校では全体的な視野の広がりを最も重視しています。

英語がコミュニケーションツールとなるために、どのような英語教育をされているのでしょうか。

 「南山と言えば、英語」という学校イメージを持たれていますし、期待もされていますが、本校に入るために、小学校の時から英語の塾などに通う必要はありません。

 本校では、中学入学後から、一番はじめのアルファベットから、きちんと学んでいくカリキュラムを組んでいます。そして、中学1年生から、ひとつひとつの授業や課題、活動に取り組んでいくことで、高校3年生となる6年後には、英語を用いてスピーチやディスカッション、プレゼンテーションができる英語力が身についていきます。

普段の英語の授業ではどのようなことを重視されているのでしょうか。

英語の授業の様子

 本校の英語科では、中高6年間で、生徒たちが、自分の考えを相手に正しく伝え、相手の考えを正しく受け取ることが英語でできるようになることを目標としています。実際の授業では、3つのことを大切にしています。

 一つ目は、自分の意見を英語で書いて表現していくライティング活動です。中学1年生の最初は3文程度、中学2年生では50ワード、中学3年生は80~100ワード、高校1・2年生は120~150ワードというように、段階的に使用する単語数を増やしていきます。
 内容についても、最初は自己紹介や友達紹介、学校紹介みたいなものからはじめて、段階的に身近な話題から社会的な話題へとレベルを上げていきます。
 文章を書く上では、文法というものが必要になってきます。生徒によっては、「英文法=教科」といった認識を持ってしまうこともありますが、本当はそうではありません。例えば、“can”という単語は、「○○ができる」ということを伝えるための単語として存在するのであって、入試や検定試験の文法問題のために存在しているものではありません。
 授業でも、「こういうことを伝えたいから、このような文法があるのだよ」という文法指導をしていますし、そうして習った文法を、いろんなパターンで使えるような活動を授業ではたくさん行っています。

 二つ目は、自分の意見を相手に伝えるスピーキング活動です。各学年で行っているフリートーク(トピックを与えて時間内に話す活動)では、「自身の学校生活」や「宿題を廃止するべきか」といったトピックを、いきなり生徒たちに与え、1分間スピーチをさせます。中学1年生から、この活動をしており、学年が上がるごとに、ライティング活動同様に、身近な話題からどんどん深い話題へとレベルを上げていきます。

 三つ目は、数多くの洋書に触れて、英語で内容を楽しむという多読の活動です。そもそも読書は、テスト対策のものでもなければ、「下線部を埋めよう」「筆者の気持ちを説明しよう」というように読むものではありません。本に書かれた展開を楽しみながら読むものです。本校では、特に目標の設定をしていませんが、中学1年生の秋を目安に、簡単な洋書から、徐々に難しいものへとレベルを上げて読むことを推奨しています。英語のレベルが高い生徒もいますが、彼女たちには難しい本を読めることに満足するのではなく、多くの洋書を読むこと、触れることを求めています。

 ライティング活動、スピーキング活動、そして多読の3つの活動を、中学1年生から中学3年生までしっかり行うことで、高校からの英語でのプレゼンテーションやディスカッションに必要な力を培うことができ、また卒業時に、全員が一定の英語のレベルに到達することができています。

貴校で実施されている海外研修について教えてください。

海外研修の様子

 本校には、希望者のみになりますが、高校1年生を対象にしたイギリス研修と高校1年生・2年生を対象にしたカンボジア・ベトナム研修、イタリア研修があります。コロナ禍により久しぶりの海外研修再開ということで、今年度は例年に比べて、多くの申し込みありました。

 カンボジア研修では、アンコール遺跡の石材修復の体験ができます。この体験では、海外への援助として、資金援助だけでなく技術援助も行っていることを、身をもって体験することができます。石材修復は体験したら終わりではなく、自分の修復した石材が、実際に遺跡の一部として使われるため、生徒は国際貢献について色々なことを考え、感じることができます。ベトナム研修は、観光もありますが、孤児院へ行ったり、マングローブ植樹を行ったりします。またJICAの職員の方から、日本の国際貢献や、JICAで活動することについて、話を伺います。生徒たちが社会貢献の方向性の一つとして学び、自身のキャリアに活かすことができればと考えています。

 カンボジアやベトナムという国を研修先や滞在先として選択する機会は多くないように思います。しかし、勇気をもって飛びこんだからこそ、得られる経験や感じられるものがあると考えています。そういう意味では、海外研修は国際的視野の育成が具現化しているものの一つであると言えるでしょう。

 イギリス研修ではイギリス名門女子校チェルトナムレディスカレッジに滞在して、ハイレベルな授業やアクティビティに参加します。イタリア研修はローマ・バチカン市国を訪れ、クリスマスミサに参加したり、修道士の生活を体験したりします。研修先は世界の情勢に応じて何度も検討を重ねてきました。以前は、アメリカ・オーストラリア・カナダにも行っている時期もありました。

エンパワーメントプログラムとは、どのようなものなのでしょうか。

 エンパワーメントプログラムは5日間の学校内で実施するプログラムです。All Englishで「自分自身について」「リーダーとしてのあり方」「社会問題との向き合い方」といったテーマについて、ディスカッションやディベート、プレゼンテーション等を行います。プログラム全体を統括するネイティブ講師がファシリテーターとして授業を行っていきます。また、6人程度のグループごとに、海外有名大学からの留学生1名がグループリーダーとしてつくのですが、彼らが場を盛り上げ、生徒たちの見本を示してくれるため、生徒たちは自然に英語をどんどん話すようになります。

 プログラム最終日には、本プログラムを通して、学んだことや自分の将来について、生徒たちが英語でプレゼンテーションをしますが、生徒たちの頑張りや成長が感じられます。

 授業においても、スピーキングやディスカッション、プレゼンテーションを行っていますが、どうしても生徒同士だけでは気持ちが緩んでしまう部分が出てきてしまいます。そこで、これまで培ってきた英語力が、英語を第二言語とする人に、実際にどれだけ通用するのかを試す場として設けたのが本プログラムです。英語科企画でスタートした本プログラムは、3年目とまだ新しいですが、生徒からのとても評判が良いです。当初は高校1年生のみを対象としたプログラムとしていましたが、現在は中学3年生から高校2年生に対象を広げ、毎年30~50名ほどが参加しています。

 このほかに、巣鴨中学校・高等学校が実施しているDouble Helix にも、本校は参加しています。エンパワーメントプログラムやDouble Helixといったプログラムに参加する生徒は、もともと、このようなプログラムに興味があり英語が好きな子が多いです。同時に英語に対して苦手意識を持っている生徒も多く参加しています。たとえ、英語力がプログラムレベルに達していなくとも、これを機に頑張りたいと参加した生徒が見違えるような成長をする場面に数多く立ち会ってきました。生徒たちの背中を押してあげて良かったなと思う瞬間です。

 また、本校では探究活動にも取り組んでいますが、この探究活動についても、生徒たちが自身の世界観から抜け出す手段として捉えています。国際経験とは異なる意味で、自分の知らない世界に飛び込む経験となるため、本校が目指す視野の広がりを育むことができると感じています。今後もこうした取り組みにより、豊かな人間性を育んでいきたいと考えています。

貴重なお話を、ありがとうございました。

編集後記

 中島先生のお話をお伺いしながら、着実に一つ一つを積み上げて、豊かな人間性を育んでいく同校の教育を知ることができました。取材前は同校の評判などから、英語教育について特別なことをされているのかと実は思っていましたが、多読の活動で英語のレベルが高い子に難しい洋書を読めることに満足するのではなく、多くの洋書に触れることを勧めているということなどから、特別なことを行うのではなく、段階に応じて適切な力をつけていくことを重視されていることを感じました。また、同校の英語教育では、学ぶ本質を伝えていると思いました。異質なものと出会い、視野を広げる。そのためには、英語が必要であり、知識が必要であるということが生徒たちに伝えられているのだと思いました。
 今回は国際教育を中心にお話を伺いましたが、視野の広がりを目指した同校の探究活動についても、今後目が離せません。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 佐々木梨絵]
2022年11月取材

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