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先進校レポート

淑徳中学高等学校 留学コース高2担任・英語科教諭 増渕先生

 東京都板橋区にある淑徳中学高等学校(以下、淑徳)は、約130年もの歴史を有する伝統校です。明治25年(1892年)に、校祖の輪島聞声先生により、同校の前身である淑徳女学校が創立されました。輪島先生が掲げた理念である「進みゆく世におくれるな、有為な人間になれよ」は、「時代の流れをしっかり捉え、それぞれが能力を発揮し、社会に役立つ人間として生きてほしい」という普遍的なメッセージです。同校では、この理念のもと、日本人としてのアイデンティティや現代グローバル社会に求められる豊かな人間性と倫理観を育む「心の教育」を行い、コロナ禍においても海外プログラムを実現し、同校留学コースでは1年間の留学も実施しました。

 今回は、1990年から今日に至るまで1000名を超える留学生を送り出している留学コース高校2年生担任 英語科教諭でいらっしゃる増渕陽祐先生に詳しくお話を伺いました。

貴校の留学コース創設の経緯を教えてください。

留学コース高2担任・英語科教諭 増渕陽祐先生

留学コース高2担任・英語科教諭 増渕陽祐先生

 本校は早くから海外との交流を図り、1981年からアメリカのオレゴン州へ、1987年からイギリスのチェルトナムへのサマーキャンプを実施してきました。しかし、更なる国際化の中、短期間の海外滞在とは異なる1年間を通して留学することの重要性を思い、第10代校長である里見達人先生(現・大乗淑徳学園常務理事)が、1990年に淑徳高校留学コースを設立し、アメリカのセント・メアリー校とイギリスのセント・エドワーズ校に合計28名の生徒が初めて留学をしました。

 当時は、海外留学は個人の問題として処理をされており、海外の高校で勉強をしても取得した単位は日本の高校で認めることができませんでした。そのため、高校生での留学の場合は、1年間の休学をすることが普通とされていました。このような状況を全面的に改めて、留学先の高校やホームステイ先もすべて本校が全責任を持ち、留学先の高校での取得単位を認めるとという考えのもと生まれたのが、本校の「高等学校1年間留学制度」です。学校が留学における全てを徹底的に支援する体制は日本唯一のシステムです。

留学コースには、どのような生徒さんが入学されていますか。

 留学コースの入学者は、例年、本校中学校から内部進学をした生徒が半数、外部より入学してきた生徒が半数程度です。彼らは、海外で何かをしたい、やりたい事を見つけるため価値観を広げたいという強い気持ちを持って入学してきます。特に将来の目標を見据えて、留学を手段として考えていて入学をしてきている生徒は非常に優秀ですね。留学コースでは、入学時に英検2級相当の英語力があることを求めていますが、正直なところ、言葉は後からでも何とでもなります。海外で何かをしたい・やり遂げたいという強い気持ちを持っていることが、何よりも大切である考えています。

留学コースでは高校3年間をどのように過ごすのでしょうか。

 高校入学後から高校1年生の夏までは、留学準備期間として、しっかり英語を学ぶとともに、海外で生活をしていくために、自分自身で問題を解決していけるようになること、自主・自立が大切であるということを伝えています。そして、高校1年生の夏から高校2年生の夏までの期間において、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの学校の中から、生徒たちが希望する学校に1年間留学をします。

 最初の3か月は、環境に慣れるまで苦労しますが、留学の終わり頃になると、海外での生活にも慣れて帰国したくないという気持ちになるようです。留学中に、例えばホストファミリーとの関係が上手くいかないなどの問題が発生した場合、生徒たちは、保護者に連絡をするのではなく、まずは現地のスタッフや留学先の先生方と相談をします。これは、自分自身で問題を解決できるようになるだけでなく、問題の当事者としての意識を育むことも、留学コースでは大切にしているからです。生徒たちは、留学先にて自分自身に降りかかった問題に対処していくことで、大いに成長していくことができます。

 留学から帰国した後は、留学コースでは、【1年間留学×グローバル教育×探究】の取り組みとして、世界の重要な問題を認識し、解決について学び、行動していく活動である“The Global Leadership Project”という生徒主導のプロジェクトを行います。こうした取り組みを行いながら、生徒たちは志望校を決定して、1年かけて自己PRや志望動機の作成を進めます。留学コースの特徴として、大学受験の際において推薦制度を利用する場合が多いため、高校3年生の夏には進学先を決めている生徒もいます。

海外大学への進学者もいらっしゃいますね。

 数年前に留学コースから、アメリカのブラウン大学やイギリスのバーミンガム大学への進学者が出て以降、海外大学への進学者が増えてきました。また留学コースだけなく、スーパー特進コースや特進選抜コースからも海外大学へ進学する生徒が増えてきています。今年は、ハンガリーにある国立デブレツェン大学医学部やアメリカのアリゾナ州立大学に現役合格者を輩出しました。

 こうした海外大学進学者の増加により、今年度からは、海外大学への指定校推薦制度を開始したほか、各種民間英語(IELTS等)の対策講習や、留学カウンセリング、講演会等も開始しています。海外大学も選択肢としてあるのだということを、講演会などを通して、生徒たちには積極的に伝えています。

The Global Leadership Projectの発表会では、生徒さんたちが多種多様なテーマについて、プレゼンテーションをされていますね。

The Global Leadership Project 生徒の発表の様子

The Global Leadership Project 生徒の発表の様子

 本プロジェクトでは、世界規模の重要な課題について調査し、行動を起こす必要があると思われる、地域レベルまたは世界レベルでの問題を明らかにします。調査と研究を通じて、問題の影響を受けるさまざまな人々のさまざまな視点を認識し、理解しようと試み、そうすることによって、問題に対する自分自身の視点と理解を深めていきます。そして、自分たちがどのような変化をもたらすことができるのかを考え、実際に行動を起こします。また、教室の中での学びを、目の前の現実の世界に応用させ、学校外の組織・団体と協力しながら、自ら体験することが重要な要素となっています。こうした経験が、生徒たちにとっての将来への準備となっていくと考えています。

The Global Leadership Project 生徒作成資料

The Global Leadership Project 生徒作成資料

 生徒たちは、留学によって、高い英語力を身につけ、英検やTOEIC・TOEFLにおいてスコアを得られるようになるだけでなく、海外で1年間生活をすることで、例えばLGBTQやジェンダー、ヴィーガンといった問題について当事者意識をもち、これらの問題に対する考え方や価値観というものも学んできます。こうした学びにより、生徒たちは帰国後、様々な課題への解決に向けて、自発的に動いています。留学コースの生徒たちが、学校に対して新たな企画を提出することが多いのも、留学で学び得たことがきっかけになっているのです。

高校時代での1年間の留学は、大きな影響を与えるのですね。

3ヶ月の留学では、言葉の壁を超えることはできますが、本当に世界のことを理解するためには1年間という期間が必要だと考えています。この1年間の留学制度は、まさしく本校の理念の実践形であると言えます。海外にて1年間を過ごすことで、その地域に根差した文化や習慣、感性を身につけ、世界に対する広い視野と社会や世界に貢献したいという想いを持って、生徒たちは帰国してきます。そして、帰国後は、高い英語力は勿論のこと、豊かな国際感覚を強みにして大いに活躍しています。

ありがとうございました

編集後記

 今年2月に実施されたThe Global Leadership Projectの発表会に参加し、いくつかのグループの発表を聞きました。今回の取材で増渕先生がおっしゃられていた通り、生徒たち全員が問題に対しての当事者意識を持ち、何とかしたい、変えたい、そして一人でも多くの人にこの問題に対して分かって貰いたいという想いを持って発表していました。

 発表後に、何人かの生徒さんに、留学によって何が変わったのかという質問をしたところ、日本では自分自身が当たり前だと思っていたことが違うということに気づけた、その事に気づけた今の自分が好きだと回答してくれました。

 また、どの生徒さんもとても親切で、参加していた受験生やその保護者が何か困っている時にはさっとお手伝いしたり、気さくに話しかけたりしていることも印象に残っています。生徒の皆さんの姿から、留学を通して、問題の当事者意識を培っただけでなく、淑徳で身につけた利他共生の精神を深め、困っている人がいれば助けるといった思いやりの心が大いに育まれていると感じました。生徒の皆さんが、今後どのような活躍をされていくのかとても楽しみに思います。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 佐々木梨絵]
2023年6月取材

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