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イシュー

グローバル教育 気になるキーワード VOL.7 「EdTech」(エドテック)「EdTech」(エドテック)
解説:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之

新型コロナウイルスによる感染症が拡大し、全国の学校が休校を余儀なくされている中で、にわかに注目が集まっているのがEdTech(エドテック)の活用です。ここでは、学校教育の中でどのようにEdTechが使われているのか、そして将来どのように発展していくのかについて解説したいと思います。

EdTech(エドテック)とは?

「EdTech(エドテック)」は、「Education(教育)」×「Technology(技術)」の造語です。2013年頃から日本で使われるようになったようですが、当時「FinTech(フィンテック)」(Finance×Technology)、「AgriTech(アグリテック)」(Agriculture×Technology)など、様々な領域にコンピュータ技術を取り入れて、生産性や正確性、効率性を飛躍的に向上させる動きがあり、その一環で使われるようになりました。

つまり、EdTechとは、教育領域にテクノロジー(科学技術)を取り入れてイノベーションを起こすことを表します。ここでいうテクノロジーとは、AI(人工知能)やVR(仮想現実)などの先端技術はもちろんのこと、すでに一般的となっているコンピュータ技術(アプリやソフト、デバイス等)も含んでいます。教育領域以外では当たり前に使われている一般的な技術をうまく教育領域に取り込むことでも、これまではできないと思っていたことができるイノベーションが起こる可能性もあります。

前述したような経緯で出てきた言葉ですので、どちらかというと、「Technology」寄りの発想が強く、民間教育産業の中では使われていますが、学校の先生や教育学者はあまり使わない言葉でした。その証拠に公には2017年の「『未来の教室』とEdTech研究会」で初めて使われましたが、これは文部科学省ではなく経済産業省の管轄の研究会なのです。 しかし、近年は「開かれた学校」という発想もあり、学校教育にも外部の資源を活用することが求められており、学校教育においてもEdTechという言葉が使われるようになりつつあります。

休校中に活用されたEdTechには、どんなものがあるの?

最近EdTechが注目されたのは、学校が休校になる中で、子どもたちが家庭にいながら学習をする方法として、オンライン学習(e-learning=イーラーニング)推進されるようになったからです。オンライン学習とは、学校や先生が持つ情報端末(パソコン、タブレット端末、スマートフォン等のインターネットにつながる情報機器)と家庭や児童・生徒が持つ情報端末をつなぎ、学習を進めるということです。

オンライン学習の方法は大きく分けると4つで、先生と児童・生徒の間でやり取りする情報が動画か静止画・文字情報か、やり取りの方法が双方向か一方通行かということで分かれます(下図)。

 

それぞれについて、ここでは詳しく説明しませんが、このオンライン学習を支える技術やアプリがEdTechです。一例としていえば、在宅勤務中のビジネスマンの方がオンライン会議で使うZoomというアプリを、教育領域で先生と児童・生徒のやり取りに使えば、それはEdTechです。

Zoomは動画で双方向通信をするアプリですので、休校中に疑似的に授業を行うために一部の学校で大活躍しました。しかし、通常時の学校教育においては、あまり使い道はないかもしれません。むしろ、予習や復習を過程でするための動画配信や学習アプリの方が使われるのではないかと思います。

GIGAスクール構想とは

休校期間中にはEdTechは小中学校としては特殊な使われ方をしましたが、EdTechを活用した学校とそうでない学校との間で、学習の機会に差が出たということもあり、にわかにEdTechの有効性を認識した人が増えました。休校が解けて学校が通常に戻ったアフターコロナには、一気にEdTech活用が進むと思います。

それを後押しするのが、文部科学省の「GIGAスクール構想」です。コロナの前から、「5年間かけて全国の小中学校に一人一台の情報端末を整備する」ことを目的に莫大な補助金を出すことを決めていましたが、コロナ騒ぎでそれを前倒しすることも決定しました。この1年の間に一気に学校のICT武装が進みます。

しかし、ICT機器が導入されただけでは何も変わりません。ICT機器を使って教育にイノベーションを起こすEdTechが推進されなければ、宝の持ち腐れになります。

EdTechの活用と将来性

それでは、EdTechの活用について、将来性も含めて整理しておきましょう(下図)。

 

学校教育におけるEdTech活用は、学習面と学校経営面の2つがあります。まず学習面でいうと、前述のオンライン学習(e-learning)を含めて「ブレンディッド・ラーニング」という概念にまとめられると思います。それはどういうことかというと、児童・生徒の主体性を活かしたe-learningと学校における集団授業がブレンドされた学習形態です。具体的にイメージできるようにいうと、家庭や授業の一部で個別最適(一人ひとりに合った学び)となるe-learningで効率的に知識を身に付ける学習をし、学校の授業の多くは集団授業で探究学習(探究学習についてはこちらを参照)をするということです。

e-learningにおいてEdTechがどのように使われるかは前述した通りです。集団授業での探究学習におけるEdTechは、児童・生徒が調べたり、まとめたり、分析したり、共有したり、発表したりする際に情報端末を使うという形で活用されます。大人が仕事をするのに情報端末を使わずには何もできないのと同じで、これからは子どもたちの学びにも情報端末が不可欠になると思います。そのため、一人一台利用できるように整備を急いでいるのです。

EdTechを活用した個別最適学習で知識を効率的に身に付け、EdTechを活用した探究学習で思考力・判断力・表現力等の多様な資質・能力を身に付ける、この2つがうまくブレンドされた学習がいま求められているのです。

学校経営におけるEdTechの活用

企業経営にいまやテクノロジーが欠かせないのと同様に、学校経営においてもテクノロジーは不可欠になります。特に、学校には何百人もの生徒が日々学習したデータが蓄積されていきます。いまはそれを捨ててしまっていたり、蓄積したとしても活用ができていなかったりします。これからはAI(人工知能)を活用したデータサイエンスにより、蓄積した膨大な子どもたちの学習データを分析し、より良いカリキュラムを考え出したり、児童・生徒一人ひとりに合わせた学習方法のアドバイスをしたりできるようになります。これは学校での学びをがらりと変える可能性を秘めています。大学ではIR(Institutional Research)といって学生データを経営に活かす活動が既に行われています。

さらに、先生たちが日々行っている校務にもテクノロジーを活用する余地があります。いまだに時間割の作成を手作業で行っている学校も多いようですが、AIに任せれば自動で適切な時間割を作成してくれます。教材の作成もEdTechで効率化ができます。あらゆる校務をEdTech活用という視点で見直してみれば、かなりの仕事を削減できるのではないかと思います。

教員の働き方改革が叫ばれる中、こうしたイノベーションを起こさずに、ただ単に「残業を減らせ」「早く帰れ」といっても余計に現場が疲弊するだけです。子どもたちと向き合う時間を増やすためにも、校務の面においてもEdTechをフル活用するよう検討してほしいと思います。

実効の上がるEdTech活用を

前述しましたが、いま国からの補助金で全国の小中学校に情報端末やICT機器がばら撒かれようとしています。でも、ICT機器はただの箱。その中にどんな魂を込めるかが大切です。EdTechを活用してどのような学びを実現したいのか、子どもたちにどんな力をつけたいのか、本質的な問いに戻って考えてみましょう。いまは100年に一度の教育大改革の時だと思います。EdTechをうまく活用して学校教育にイノベーションを起こし、子どもたちの未来を切り拓いていきましょう。

 

※学校の先生方へ
◆「EdTech(エドテック)」についてもっと詳しく知りたい方には、著者の論文が掲載された雑誌の抜粋を差し上げます。 以下よりご連絡下さい。
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(2020年5月)

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