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先進校レポート

湘南白百合学園中学・高等学校 林先生

林校長先生

 神奈川県藤沢市にある湘南白百合学園中学・高等学校は、創立86周年を迎える、キリスト教に基づく全人教育を行う私立の女子校です。フランスにルーツを持つ修道女会を母体とし、湘南の地、江ノ島を望む高台の校舎は、学びに適した緑豊かな立地環境です。
 「伝統校がもつ信頼感と、先端的な取り組みへの挑戦」を掲げ、生徒の自分軸を育む国際教育について、校長の林 和 先生から「ユニバーサルな視点を育む教育」を中心にお話を伺いました。

貴校での国際教育の歴史はどれくらいあるのでしょうか。

 本校は創立以来、英語教育に力を入れてきており、定評もいただいています。国際教育として語学研修を導入したのは、20年以上前になります。国内外、様々な目的の研修プログラムを用意しており、全員参加型の語学研修は中学1年生から 高校1年生まで、どれも英語の授業と連動させています。

 本年度は生徒たちの発話量を増やすことを念頭に、国際教育プログラムを一新いたしました。中学校3年間の集大成という位置づけの中三の学年に導入するのは、中学一、二年生で習得した英語をツールとして活かしながら、自分の生き方を考えるキャリア教育の要素や、特定の地域に偏らないリーダーシップ教育の要素を含んでいます。

 また、希望者対象のプログラムは、一人一人の語学力に合わせて中学から希望者が参加できるものです。今年度より海外研修も再開し、サンディエゴの海外語学研修は中学3年生以上の生徒19名で行いました。

英語の授業ではどのような取り組みをされているのでしょうか。

 中学生は、授業と並行する形で、年間を通したスピーチの指導や、プレゼンテーションの機会を多く創出し、発信型の学びを強く意識しています。具体的には、中学1年生では授業とは別に、ストップモーションアニメーションをグループで作成するという課題を出しました。オリジナルのストーリーを作り、1つ1つの画面をこま撮りし、動画編集し、それに英語でのナレーションをつけるという作業で、英語力と同時にICTを使いこなすスキルも求められるものですが、どの作品も想像以上に完成度の高いものでした。中学2年生では、誰もが知っているようなストーリーをベースに、英語でシナリオを書き、ドラマを作って演じるというグループ課題に取り組みました。中学3年生では、一人ひとりが「自分の住む地域」や「好きな街」について英語で紹介するスピーチを行い、内容についての意見交換の場を持ちました。生徒同士で話す時間を意識的に多く作り出し、だれもがアウトプットする時間を設けるようにしています。どの学年の作品も、グループや個人でのコンテスト形式にして発表し、優秀作品を表彰しました。この発表会は、すべて生徒たちが英語で司会・進行し、私も校長としてのコメントを英語で伝えました。とても楽しい時間でした。

 AI技術の進展に伴い、高度化した翻訳機能に誰もが容易にアクセスできる時代に入っていきます。生徒たちに期待する力は、生活する上で、また仕事を進めていくうえで便利な英会話力にとどまりません。これらの取り組みを通して、本校が目指すのは、ICT機器を利用して、自ら考え、多くの体験を重ね、そしてアウトプットする探究型の学びを通して人間力を育成することです。また同時に、言語、文化そして価値観の違いを理解した上で、世界で通じるコミュニケーション力や発信力を育成することを目指しています。

 英語学習はグローバルな力を育成するものですが、本校がこの国際教育プログラムを通して生徒たちに身につけてほしいと思うのは、ユニバーサルな視点と言えるかもしれません。

「ユニバーサルな視点を育む教育」について、もう少し詳しく教えてください。

 ユニバーサルとは、「普遍的な」という意味になります。私たちが生活する社会を、一つ一つの国という単位で捉え「国を超えた」を意味するグローバルというよりも、年齢、性別、地域や文化の違いを超えた、全ての人が理解し合い、協力し合える社会を1つのまとまりと捉える視点です。その社会の一員として、自分に与えられたミッションとは何かを考え、実践し、自らを成長させ、その上で自己実現をしていく生徒たちを、学校としてサポートをしていきたいと考えています。

 英語を学ぶ中で、どうしても英語圏を意識しがちな生徒たちに、30年後50年後を見据えて、アジア・アフリカの国々にも目を向けさせたいという思いもあります。コロナ禍にあって、海外への挑戦は難しさがありますが、VR技術を利用した新たな選択肢に可能性を感じています。

常に学びの中に新しい手法を取り入れ、チャレンジしていく姿勢が素晴らしいですね。

 冒頭で、本校は創立以来、英語教育に力を入れてきたと申し上げましたが、多くの方が、本校を選んで下さった理由の1つは、本校が実施してきた先端的な取り組みであったと思っています。例えば、中3生全員が1年間をかけて体験する環境教育は、20年の歴史を持っていますが、現在国が提唱している探究的な学びに引けを取らない内容です。教育のICT化も、コロナ発生前から、全校レベルでの実践のために準備していたことが、迅速に機能し、この分野において現在も一歩先を見据えることができていると思っています。

帰国生の方も多くいらしゃいますね。

 様々な個性を持つ生徒が互いに影響しあって、また新たな価値観を生み出すこともありますし、一人の個人の中に多様な自分がいて、そんな自分を大切にしてほしいという思いもあります。多様性を重視する本校にとって、帰国生の存在は大きいです。そして本校が帰国生に支持していただけている一つに、Eクラス(英語の取り出し授業)があることだと思っています。せっかく身につけてきた英語力をどうやってキープしていくかは、帰国生自身もそうですが、学校としての大きな関心事です。また同時に、幼い時期に習得した英語を、教養ある大人の英語に高めていくこと、どうしても弱みとなる文法力もしっかりと習得させることなど、帰国生が抱える課題にも対応できる授業内容です。

 Eクラスは、海外在住歴の長短や英語試験資格の有無に関係なく、中学1年生5月に帰国生・一般生の希望者対象に試験を実施して、基準をクリアした生徒が、中間試験後に、このクラスに所属します。Eクラスでは、ネイティブの教員と日本人教員がこの生徒たちに適切な英語力育成のためのシラバスを別途作成して、海外のテキストを使ったオールイングリッシュの授業を展開し、英語を母国語とする国の現地校の国語の授業に近い環境を用意しています。授業は、ネイティブ教員と、海外経験の長い帰国生の日本人教員が担当し、ゼミ形式のアウトプット量の非常に多い内容です。Eクラスでは、一定の英語力、授業レベルの維持を重視しており、定員を設けていませんが、平均で7名程度です。Eクラスに在籍する生徒たちは、授業中だけでなく、担当の先生方やクラスメイトとは登下校中や休み時間も英語で話すようにと、自分たちで取り決めて実行しています。

 また本校には、帰国生が活躍する場がたくさんあります。例えば、英語のディベート同好会やボランティア団体PVO(国を越えた姉妹校との交流)は、全て英語を使用しての活動であり、培ってきた語学力だけでなく、海外で身につけてきたリーダーシップや積極的に課題に立ち向かう姿勢やスキルを、学校の中で思う存分発揮してくれています。

これからの湘南白百合学園の教育について教えてください。

 教育現場のデジタル化は、コロナ禍がそれを加速させる数年を経て、学びの選択肢を飛躍的に増大させました。だからこそ、それぞれの学校が目指す教育に、何を選別して提供していくかについて適切な判断が求められるでしょう。語学教育については、今後もハイブリッドな展開を継続していきたいと考えています。

 また本校には海外大学への推薦制度があります。海外での学びに関心を寄せる生徒・保護者も多く、その要望にも応えていきたいと考えています。本校のグランドデザインでは、卒業を迎える生徒たちに望む姿として、「様々な分野へ踏み出し、多様な人々と協働できる女性」を掲げており、それをゴールとして、6年間の国際教育の学びを作り上げています。国外に目を向けることで、国内への関心を再構築し、そしてまたそれを次なる国外への挑戦へつなげていけるような、幅広い国際的な視座の獲得を目指しています。

  湘南白百合学園は、教育目標とする「愛ある人として」人格を磨くこと、誰かのために尽くせるようにと知恵を積むこと、そして一人一人が誇りをもって幸せな人生を歩むようにと生徒たちを応援する学校です。

貴重なお話を聞かせていただきましてありがとうございました。

編集後記

 湘南白百合で育った生徒の特長を林先生に伺ったところ、「非常に意欲的で、何事にもひるまずに取り組む積極性が生徒にあり、語学を自分の強みにして女子が社会の一線で働きたいという思いを持っています。新しい事に挑戦する意欲がとても高いです」とおっしゃいました。生徒のこうした主体性は、校内でも感じることができます。生徒たちを出迎える玄関にはジャンヌダルクのモチーフが特徴的な美しいステンドグラスが飾られ、デザインやインテリアの選定まで生徒主体で作り上げた「リリースペース」では、生徒同士が居心地よく学び合い語り合い、切磋琢磨するための空間が用意されています。生徒は自然と、自分だけのためではなく、人のために学ぶ。そして、自己実現として、人や社会のために貢献できる自分が幸せなのだという価値観を育む湘南白百合学園の教育に今後も注目です。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 湯浅佳子]
2022年7月取材

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