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先進校レポート

高槻中学校・高等学校 教頭 工藤剛 先生

高槻中学校・高等学校は、大阪府にある難関進学校である。高校募集をしない完全中高一貫の男子校で、毎年、京都大学、大阪大学、神戸大学など難関大学に多数の合格者を出している。自主・自律を育む自由な校風の伝統校がいま、グローバル化へ大きく舵を切ろうとしている。どのような改革が進んでいるのか、教頭の工藤剛先生にお話を聞いた。

グローバルリーダーを育成する教育プログラムを新たに導入しましたが、それはどのようなものでしょうか。

本校のグローバルリーダー教育は、中高6年間を3つのステージに分けて考えています。第1ステージは中1から中3までの3年間ですが、ここは「英語教育の充実」を考えています。第2ステージは中3から高1までの2年間で「探求型教育」を行います。そして、第3ステージは「グローバルステージ・プログラム」として次世代リーダー養成プログラムを用意しています。

昨年度(2012年度)試行的に、そして今年度(2013年度)は本格的にこの教育プログラムを導入しました。グローバルリーダー育成に向けた3段ロケットをイメージしてもらえればいいと思います。

第1ステージの英語教育の充実は具体的にはどのようなものでしょうか。

中学3年間とも、学習指導要領をはるかに超える週9時間の英語を配当しています。週9時間のうち、6時間を日本人教員による文法力・語彙力・読解力をつける授業、3時間を外国人教員によるオールイングリッシュの英会話授業にあてています。

英会話授業は、1クラスを2分割して少人数で行っています。教室には電子黒板が配備されており、それをフルに活用した授業が行われています。
昨年度、試行的に導入された学年においても既に英語力向上の成果が出ており、今後も期待をしているところです。

第2ステージの探求型教育とは何ですか。

昨夏、米国のトップ大学を視察する機会があったのですが、そこで大学が求めているものが日米で大きく異なることを実感しました。日本では、依然として知識詰め込み型教育が求められていますが、欧米では、自ら課題を設定して、探求して結論を導き、それをプレゼン・発表するという力が求められています。

私たちは、中高一貫校のメリットを活かし、そのような力を身につけるためのプログラムを考え出しました。それが中3段階での「探求基礎講座」と高1での「教養探求講座」です。中学3年生の「探求基礎」では、2クラスを3展開して、化学、物理、生物の実験室で、実習を中心とした学習に取り組ませています。

高校1年生の「教養探求」では、1年間、生徒の関心に基づく課題研究に取り組ませています。ここでは社会科の教員が中心に講座を開設し、希望の講座を受講するようになっています。

このようにして、第2ステージでは、自発的な学びのプロセスを体得させようと考えています。

そして、第3ステージは「グローバルステージ・プログラム」ですね。

はい、本校におけるグローバル人材育成の総仕上げが「グローバルステージ・プログラム」です。プログラムは、中3、高1対象の米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で行われるプレコースと、高1、高2対象の英国ケンブリッジ大学、オックスフォード大学で実施される本コースの2つがあります。今年度は、プレコースに38名、本コースに選抜された28名が参加しました。

本コースは、英国で10日間過ごしますが、EFL(English as a Foreign Language)講座の受講のみならず、テーマ学習を行います。特定のテーマについてグループごとにディスカッションし、テーマに関連するフィールドワークをし、最終日には英語でプレゼンテーションを行います。オックスフォード大学の優秀な大学生たちのサポートを受けながら、かなり高度な負荷のかかる学習を体験してきました。7回の事前研修、事後研修とレポート提出を含め充実した研修を受けた生徒たちは、英語力やコミュニケーション力、プレゼンテーション力はもちろんのこと、精神面でも見違えるほど成長を遂げることができました。来年以降も楽しみです。

このようなプログラムを導入するには、かなり思い切った決断が必要だったのではないでしょうか。

はい、ここ数年で学校改革を進めてきた1つの成果です。2010年度から校長が現在の岩井一に、2011年度から理事長が植木實(大阪医科大学理事長を兼務)に代わりました。それまで、本校は進学校として地域社会からも一定の評価を得ていることもあり、大きな改革をせずに従来通りの教育を堅持してきました。しかし、世の中はグローバル化時代に大きく変化しており、国家・社会を担う人物の育成に取り組んできた本校も大きく舵を切る必要性を感じていました。そこで、創立70周年という節目を良い機会と捉え、新理事長、新校長のもとに改革をスタートしました。

その中で、建学の精神をベースにして、新しい時代に合わせて、「スクールミッション」を策定しました。その言葉が「Developing Future Leaders With A Global Mindset」(卓越した語学力や国際的な視野を持って、世界を舞台に活躍できる次世代のリーダーを育成する)というものです。

このスクールミッションを体現するために、グローバルリーダー育成プログラムが策定されたのです。

名門進学校の高槻中学校・高等学校がグローバル教育に本腰を入れたら、日本の中等教育も変わりますね。

いま、政府の教育再生実行会議などで、さかんに教育のグローバル対応の提言が出されています。大学入試にTOEFLを活用するなど、一部には、求めるレベルが高過ぎるという批判の声も出ているようです。私も、確かにあまねく全国の公立学校で行うのは難しいと思います。しかし、私学は条件的に恵まれていますので、私たちがまず動く気構えを持たなければならないと思います。本校もお陰様で優秀な生徒さんたちが入学してきてくれますので、レベルの高い取り組みが可能です。私たちこそ、いまグローバルリーダー育成に本腰を入れるべきだと考えました。

私学だからこそできるプログラムということですね。では、最後に、工藤先生が考えるグローバル人材とは何かをお聞きしたいと思います。

前国際教養大学長の故中嶋嶺雄先生がグローバル教育を「全球教育」と表現したように、グローバルとは、地球全体の視野で物事を考えることだと思います。地球上には、日本人である自分以外に多くの文化や価値観の違う人々が生きています。そのような人々の考えをよく理解した上で、自分の考えを述べられる人がグローバル人材なのではないでしょうか。

そのためには、語学力はもちろんのこと、分析力や判断力、決断力、そして、自分の主張をきちんと伝えることのできる力を身につけてもらいたいです。そういった人材を育てるのが、本校の「出る杭を伸ばす」教育だと思っています。

ありがとうございました。

伝統ある進学校の高槻中学校・高等学校。しかし、長年、同じ教育を続けてきている間に、後発の私学や制度改革を始めた公立学校の躍進により、それらの後塵を拝するようになり始めていた。その危機感が改革を推進するエネルギーになったと言う。

時代はグローバル人材を求めている。しかし、グローバル人材育成には様々なハードルがあり、難易度が高い。でも、だからこそ私学である本校が取り組むのだ、という意気込みは素晴らしい。そもそも質の高い教育をしている本校が本格的にグローバル教育に力を入れ始めたらどのような成果を出すのだろうか。まだ始まったばかりだが、今後に大いに期待したい。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之
2013年10月取材

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