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イシュー

グローバル教育 気になるキーワード VOL.4 アクティブ・ラーニングアクティブ・ラーニング
解説:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之

最近、「アクティブ・ラーニング」という言葉をよく耳にしませんか。実は、教育界では、今ちょっとホットなキーワードになっています。日本のグローバル化対応のためにもとても重要なキーワードです。今回は、「アクティブ・ラーニングってなんなの?」「アクティブ・ラーニングって役に立つの?」「アクティブ・ラーニングって今後どうなるの?」という、あなたの素朴な疑問にお答えします。

日本におけるアクティブ・ラーニングのはじまり

日本では、アクティブ・ラーニングという言葉は大学教育から使われ始めました。今では、この言葉を使わない大学はないというほど定着しています。このきっかけとなったのは、2012年8月28日の中教審(文部科学省中央教育審議会)の答申です。その答申のタイトルは「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」です。あまりにも長いので、業界では「質的転換答申」と呼んでいます。

答申の中でいう「質的転換」とは、学生の「受動的な受講」から「能動的な学修」への転換のことです。つまり、受け身ではなく主体的に授業を受けられるようにしよう!ということです。

答申資料では、「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」と述べています。

大学生にもなって、能動的に学ぶための仕掛けを作らなければならないことには、ちょっと残念な気持ちもありますが、とにかくこの答申から大学の授業がアクティブ・ラーニング化していったことは間違いありません。

小中高にもアクティブ・ラーニングの波が来た

そして、遅れること2年。2014年11月20日の下村文科大臣から中教審に出した「小中高の学習指導要領を見直してください」という諮問の中に、アクティブ・ラーニングという言葉が使われました。学習指導要領というのは、小中高校で「何を学ぶか」ということを詳細に記述したものです。教科書はこれに従って作られます。そして、各学校はこれを土台にしてカリキュラムやシラバスを考えます。

あとで述べますが、アクティブ・ラーニングというのは、学習の方法です。中身ではありません。学習指導要領にアクティブ・ラーニングという言葉を使うとなると、「何を学ぶか」だけではなく「いかに学ぶか」という方法まで学習指導要領に記載されることになります。これは大きな変革です。

また、2014年12月22日の「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」という中教審の答申の中でも、高校における「アクティブ・ラーニング」について言及されました。答申資料で、「高等学校教育については、(中略)課題の発見と解決に向けた主体的・協働的な学習・指導方法であるアクティブ・ラーニングへの飛躍的充実を図る」と述べられています。

高大接続の答申というのは、大学や高校の教育を改革しましょうということと同時に、大学入試の改革について記述されています。つまり、大学入試の改革と同時にアクティブ・ラーニングということが語られたのです。高校(特に私立高校)は、学習指導要領の改訂については、定期的に行われることなので動じません。しかし、大学入試の内容が大きく変わるということについては、大きな衝撃が走りました。そこで、これを契機に、特に私立の中学校や高校ではだいぶアクティブ・ラーニングという言葉が飛び交うようになったのです。

アクティブ・ラーニングとは

では、「アクティブ・ラーニング」とは何でしょうか。文字通り読めば、「アクティブ」に「ラーニング(学習)」することです。
「アクティブ・ラーニング」という言葉が急に広く使われるようになって、誤解が生まれているような気がしています。
「アクティブ・ラーニングって、グループ学習のことだよね」
「アクティブ・ラーニングって、体験学習のことでしょ」

このような発言をする方は、「アクティブ」を活動的と訳しているのかもしれません。つまり、生徒が席に座っているだけではなく身体を動かしながら学ぶということと誤解しているのです。

通常、「アクティブ・ラーニング」を日本語にするときは「能動的学習」と訳しています。 つまり、学ぶ姿勢や態度が受動的ではなく能動的だということです。身体を動かすかどうかは条件ではありません。

京都大学の溝上慎一教授は、「一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」と、アクティブ・ラーニングを定義しています。

つまり、ぶっちゃけ、「一方通行的な授業じゃなければ全部アクティブ・ラーニングだ!」ということです(ものすごく乱暴な解釈で、溝上先生、ごめんなさい!)。

アクティブ・ラーニングって新しいの?

そうなると、今でも中学や高校では、そういう授業をやっているような気がします。「先生が質問をして、それに生徒が答える」とか、「生徒が黒板に演習問題の答えを書く」とか、「生徒が自分の書いた作文をみんなの前で発表する」とか。

そうです、中学や高校は、大学に比べれば、今でもずっとアクティブ・ラーニングを実施しているのです。ですから、割合やバランスの問題だと考えています。

日本の学校教育は知識詰込式だと言われます。評価は主に知識の量で行われます。大学入試も知識量が勝負になります。知識を詰め込もうと思ったら、授業はやはり一方的な知識伝達型講義になりがちです。バランス的には、知識伝達型の割合が多くなります。

では、アクティブ・ラーニング型の割合を多くしたら、知識量ではなく、何が身につくのでしょうか。

いま日本に起きている大きな変化

その答えを探るために、少し視点を変えて、いま日本の社会で起きている大きな変化について考えてみたいと思います。それは、少子高齢化、グローバル化、高度情報化という3つのキーワードで語ることができます。

情報化の進展で世界は1つになろうとしています。私たちは、地球の裏側で起こっていることを瞬時に知ることができるようになりました。言葉さえ通じれば、世界のどこにいてもコミュニケーションがとれるようになりました。とても便利になったということです。

一方、遠い国で起こったことが私たちの生活に影響を与えるようにもなっています。企業経営も国境を越えて行われることが多くなりました。世界に多くの日本人が出ていっています。日本にもたくさんの外国人が入ってきています。そして、企業はグローバル競争にさらされるようになりました。

日本企業は、これまでアジアの安い人手を使いながら、質の良い製品を安く大量に生産することで成功してきました。日本も人口が増え続け国内マーケットが拡大し続けていました。しかし、既に少子高齢化がかなり進んで、生産年齢人口は減り始めています。そして、周辺のアジア諸国は経済成長を遂げ、これまでの日本のお株を奪う質の良い製品を安く生産するライバルになりました。アジア諸国は、これまでの生産の下請けの立場から、ライバルになり、また、消費大国にもなりつつあります。日本のグローバル競争における位置づけは大きく変化しました。

これからの日本に期待されることは、安いコストで大量に生産することではなく、新しい価値を生み出すことに変化しているのです。真面目で勤勉、言われたことを間違いなくきちんとこなす。そんな日本の成功モデルは過去のものになろうとしているのです。

アクティブ・ラーニングで身につく力

ここまで語ると見えてきたと思いますが、これからの時代に私たちに求められるのは、既存の知識をいっぱい詰め込むのではなく、その知識を使って新たな問題を発見し、それを解決する力です。また、これまで世の中になかったような新しい知識を創造する力です。

アクティブ・ラーニングは、このニーズに応えるべく登場してきたのです。

アクティブ・ラーニングで身につける力とは、知識の活用力である「思考力・判断力・表現力」や「主体性・多様性・協働性」などです。これらの協働して問題を解決したり、新しいことを創造する力を育てるのがアクティブ・ラーニングというわけです。

そして、いま中学校や高校でアクティブ・ラーニングが急速に注目され始めているのには、もう一つ大きな理由があります。それは、先ほども少し触れましたが、2021年度入試から大学入試が大きく変わると言われているからです。2021年度入試というと、現在(2015年度)の中学1年生が現役で大学を受験する時です。すぐ目の前に大学入試改革が迫っているのです。

大学入試がどう変わるのかを少し見てみましょう。ポイントは3つです。1つは、現状の大学入試センター試験が廃止され、「高等学校基礎学力テスト」と「大学入学希望者学力評価テスト」の2つの試験が導入されることです。2つ目は、その大学入学希望者学力評価テストで試される力は、主に「思考力・判断力・表現力」になることです。そして、3つ目は、大学個別の選抜においては、「主体性・多様性・協働性」などを試せるように、多面的・総合的な評価を行うようになるということです。

大学入試改革の内容については、ここでは詳しく述べられませんが、ご興味がある方は、「高大接続システム改革会議」と検索をかけて、文部科学省のホームページをご覧ください

探究型アクティブ・ラーニング

「アクティブ・ラーニング」には1つの定まった方法があるわけではありません。通常の教科授業の中で行う場合もありますし、総合的な学習の時間などで行う場合もあります。

総合的な学習の時間では、数週間(数時間)かけて1つの課題に取り組む「問題解決学習」を行う場合があります。これは、「探究型」とか「PBL(Project Based Learning)」などとも呼ばれています。実際に社会で起きている問題に対して、生徒たちがグループで協力して解決策を考えて発表するような形式の授業です。

例えば、「駅前の違法駐輪をなくすにはどうしたらよいか」というような問題に対して、文献やインターネットで調べるだけでなく、自治体の担当者にヒアリングをしたり、駅前で利用客の声を集めたりと調査を行います。それらをもとに数名のグループで話し合い、解決策を考え、クラスの中で発表をしたりします。

このような活動を通じて、主体的に協働して考え判断し表現する力を身につけようというものです。

知識を活用するアクティブ・ラーニング型授業

一方で、通常の1回の授業の中で能動的な学びができるような工夫をする場合もあります。ずっと先生が一方的に講義をし、板書されたものをノートにとるだけだと、生徒は受動的に学んでいるので、理解も深まらず知識も定着しない場合があります。また、この授業スタイルだと思考力や判断力、表現力などは育ちにくいのが実情です。そこで、生徒をいかに能動的に授業に参加させるかという工夫が必要になるのです。例えば、少しだけでも2人組や3人組で意見交換をする時間をつくると、聞いているだけよりも理解は深まります。小テストのような演習問題を解かせるのも方法の1つです。しかし、ただプリントを配って問題を解かせるだけだと、やらなくても困らない状態が生まれます。生徒1人に1台のタブレットPCがあると、タブレット上で解いた解答をネットワークを通じて先生のタブレットPCに送り、その場で全員分の解答を電子黒板に映写することもできます。ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)活用により、アクティブ・ラーニングの手法も多様性が増します。

アクティブ・ラーニング手法の事例

埼玉県の県立高校では、知識構成型ジグソー法というアクティブ・ラーニング手法を取り入れています。これは、3人組のグループにおいて一人ひとりが違う知識や情報を持って話し合い、グループで1つの結論を出し発表するという方法です。この方法は、大学発教育支援コンソーシアム推進機構という組織で普及活動をしています。全国の小中高における実践事例も多くあります。

一方、産業能率大学の小林昭文教授が推進するアクティブ・ラーニング手法も広く紹介されています。講義は授業の最初に短時間で済ませ、残りの時間を演習にあてる方法です。演習時間中は、生徒はおしゃべりも立ち歩きも自由というのがミソで、クラス全員が演習問題を解けるようになることが目標なので、早く分かった生徒が他の生徒に教えたりします。先生の一方的な講義を聞くよりも、生徒同士で教えあったり、学びあったりすることで、より理解も進み、生徒たちの主体性も育ちます。小林教授の「アクティブラーニング入門」というご著書は、とても分かりやすいので、興味ある方はご一読ください。

また、上越教育大学の西川純教授は、以前より「学び合い」の授業を促進しており、アクティブ・ラーニングの理念にぴったりということで、「すぐわかる!できる!アクティブ・ラーニング」というご著書を出版されています。

アクティブ・ラーニングは「脳働的(?)学習」か

いずれにしても、従来型の一方的な講義スタイルの授業では、生徒はただ聞いている(ふりをしている)だけ、板書をただ写しているだけで、まったく頭が動いていないように見えることも多いです。それでは理解もできないし、知識の定着もしないでしょう。「アクティブ・ラーニング=能動的学習」を「脳働的学習」と読み換えて考えると、身体は動かなくても「脳」が「働」いていればいいのだと思います。

先生方は、特別なプログラムを考えるよりも、まず日々の授業の中で、どれだけ生徒一人ひとりの脳を働かせることができるのかを研究し実践してほしいと思います。

 

板書&ノートテイキングというやり方でいいのか、まず説明してから演習させる方法でいいのか、生徒全員が教師の方を向いて座る形式でいいのか――アクティブ・ラーニングという流行言葉に流されず、いま授業のあり方の根本から見直す時期にあるのではないかと思います。

(2015年9月)

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