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スペシャル・インタビュー

「世界のエリートが今一番入りたい大学 ミネルバ」著者 山本秀樹氏

スペシャル・インタビューの第4弾は、「世界のエリートが今一番入りたい大学 ミネルバ」の著者、山本秀樹さんです。なぜ、キャンパスも教室も無い大学が、僅か6年間で全米大学協会会長から、“どの学校も見習うべきである”と言われているのか、ミネルバ大学の特徴やその取り組みについてご紹介します。ここでは2020年6月18日に開催された私学マネジメント協会主催定例セミナーから要旨を抜粋してお伝えします。

ミネルバ大学とは

 Minerva Schoolsは2014年9月に開校した全寮制の4年制総合大学で、2019年9月現在、約600名(約120-200名/学年)の生徒が学んでいます。

約78%(2016年度入学実績)が留学生という国際性に富む環境で、全学生が一緒に4年間で7つの国際都市でクラスメイトと共に学習・居住するだけでなく、現地の企業・NPO・行政機関、研究機関等との協働プロジェクトを行う実践的なプログラムと“学習の科学”をベースに設計されたオンライン学習プラットフォームを用いたカリキュラムを採用しています。

従来の教室型授業では実現できなかった高い学習効果と「都市をキャンパスにする」運営方式は既存のトップエリート大学で問題となっている「高騰する学費」や「実社会との接点の少なさ」といった課題を解決し、The EconomistやThe Atlanticに代表される欧米の経済・教育メディアから「高等教育を再創造した大学」として高い評価を得ています。

ミネルバ大学に対する評価

全米大学協会会長であるリン・パスケーラ氏からは、「ミネルバ大学のしっかりとしたカリキュラム、とりわけ、学年を重ねるごとにより難易度が上がっていく、自律したプロジェクト学習に重みが置かれている点を評価する。ミネルバ大学が示した結果は素晴らしいもので、全ての教育機関が応用できるし、またそうすべきだと考える」との評価を得ています。ミネルバ大学というと、“オンライン大学”であることが特徴のように考えられがちですが、リン氏が賞賛されているように、自律したPBL(Project-Based Learning)に重きを置いたカリキュラムが、世界のエリートから最も評価されているポイントです。

ミネルバ大学の特徴

では、なぜミネルバ大学ではこうした、評価されるカリキュラムが実施できるのか?ミネルバ大学の特徴は、“学習の科学に基づく教授法とカリキュラム”、“世界を巡る異文化没入経験”などいくつか挙げられるが、ここでは“情報技術の徹底的な活用”についてみていきたいと思います。

(1)効率的で効果の高い広報/マーケティング

“ミネルバ大学で大きく成長できる学生”へ効率的に広報を行うために、ミネルバ大学では、“力をいれてやる”こと“やらない”ことを明確に分けています。例えば、紙媒体への広告は一切行っていません。また高校へ出向いての学校紹介も、講演会が開催できない場合は訪問は行いません。

一方、共感した主催者による情報拡散が期待できる、既存の教育への疑問を投げかけるシンポジウムや、理念を共有する団体を通じたインターネット上のキャンペーンには積極的に参加し、自主制作の動画/記事などはSNSを通じて積極的に配信しています。

また、HPを見に来た学生の情報もトラッキングし、学生のペルソナに合わせた情報配信・フォローアップを行っています。ミネルバ大学には様々な側面があるため、“教育機会の平等”や、“異文化没入体験”、“自律を育むカリキュラム”など、それぞれの学生のペルソナに合わせて配信するメッセージのテーマを変化させ、より効率的に学生へメッセージが届くように工夫をしています。

(2)ベストな状態を詳細に分析する入試

ミネルバ大学にとって“相性が良い学生”とは、「才能があり」「努力ができる」学生であって、それ以外に国籍や、所得は関係ありません。そのため、ミネルバ大学の入試は全ての審査がオンラインで完結し、受験料も無料。また、語学テストや、推薦状など、お金をかければ磨けるものは審査の基準にしていません。必要なのは、「学校成績」「課外活動実績」「(録画形式の)思考・表現力テスト」のみ。世界中の誰もがチャレンジでき、対等な場で評価される入試制度となっています。

また、審査期間も8月からの約7ヶ月半と非常に長く、誰もがベストな状態で入試にチャレンジできます。合格ボーダーライン上の受験生には、オンライン・オフラインで追加質問が実施されます。

こうした全ての仕組みは、絶対基準は高い(合格率1.2%)が、学生を落とす入試では無く、育てられる学生を選び抜くために設計されていると言えます。

(3)知識習得/実践の両方に効く学習支援

ミネルバ大学では、“情報技術を活用し、効果的に知識を覚え”、“学んだ知識をプロジェクトで実践する”というサイクルで講義を行っています。

知識の習得は、独自に開発された学習プラットフォーム上で行われ、予想される質問なども織り込んだ緻密な授業設計→講師が10分以上は話さない、生徒主体の授業→ルーブリックに基づく授業中の態度・ソフトスキルへの緻密なフィードバックの循環で実現しています。

プロジェクトは、1年次では学生の習熟度に合わせて毎週10~20種類が用意されており、学年が上がるごとに、「自分のやりたい専門分野」に特化していく。また、こうした課外活動の記録も、独自のプラットフォームで記録され、教員には、これらの記録を下に、人的ネットワークを活用し、学生が社会にスムーズに接続できるよう支援していくことが求められています。

<図 1年次のプロジェクト例>

<図 既存の大学とミネルバ大学の履修自由度比較>

反転学習とは

反転学習とは、事前に学生が課題に取り組み、当日、ディスカッションなどの学び合いを通じてより明確になった“わからないこと”を教員やティーチング・アシスタントと共に議論することで、理解を深める学習方法。

ハーバード大学物理学教授のE,Mazur氏によれば、「講義形式の授業内容は、例え期末試験を行っても半年後には学習内容の9割を忘れる。一方、反転形式の授業では同じ期間で、学習内容の7割を保持できる」と述べています。

パンデミック下で反転学習を継続するには?

今回のコロナによるパンデミック時でも、前述のMazur氏は「学習は独りよりも、複数でおこなった方が良い」という信念の下、反転授業を行うことにこだわっていました。

しかし、世界中から学生が集まっているハーバード大では学生もそれぞれの国に帰国しているため、ライブ形式での講義は時差やネットワーク環境の関係で難しく、録画形式の講義では集中力の維持が難しいといった課題がありました。

そこで、非同期でも、インタラクティブな学習環境を創る方法として、“グループ学習に向いたテキスト形式のラーニングプラットフォーム”として開発されたのが、『Perusall』です。

Perusall開発のポイント

(1) 非同期でも議論(学び合い)ができる
Perusallでは、教員がアップロードした課題テキストを学生が読み、質問したいところにハイライトをすることができます。議論はチャットで行うため、全員が同時にアクセスしていなくとも、同じ文章を見ながら、教えあったり、議論したりすることができます。

(2) 全ての学生に参加を促す仕組み
教員の側では、個々の学生が課題文章をどこまで読んだか、課題クイズにどれくらい取り組んだか、チャットでどれくらいの質問を投げたか、どれくらいの人の質問に反応・返答したかが、全て可視化されます。教員は、宿題の回答に加え、宿題に取り組んだプロセスも見ることができます。

(3) 学生が“どこで悩んでいるか”を把握する
Perusallには、複数回ハイライトされた箇所、およびそこに含まれる特定の文言を自動検索して教員に教えてくれる機能があります。教員はそれに対し、実際のディスカッション内容がチェックできるので、学生がどのような解釈ミスを犯しているのか、思考の癖があるのかを把握し、より的確なアドバイスが可能になります。

“反転授業のオンライン化”のポイント

一見ハードルが高そうな反転授業のオンライン化だが、適切なアプリケーションを使用し(前出のPerusallは無料で公開されている)、授業計画をしっかりと立てておけば不可能ではありません。逆に、Mazur氏曰く、「ライブでの質問と、(反射的な)返答のやり取りよりも、非同期のチャットの方が、『考える時間』をより多く取れるので、深い対話が成立することもある」ということです。

なぜ、私たちはZoomでの“同時”、“一斉”授業に囚われていたのだろうか? Mazur氏は、「教室で教員が質問して、答えさせているのは『教員が知りたいこと』であって、『学生が知りたい疑問』ではない」とも指摘しています。学校がより解決したいのは「情報を伝えること」なのか?それとも「学生の理解を促すこと」なのか?どちらに授業時間を使うべきか改めて、考える必要があります。

未来の学校とは?学校の役割変化

情報技術の進化・教育現場への浸透によって、情報伝達場所としての学校の役割は消えていくことが予想されます。一方、学びを育む場所、智が創発される瞬間を導く役割は引き続き残るのではないでしょうか。

こうした変化の先にある“未来の学校に求められる要素”は、すでに主張されいる「実践的な知恵」に、学びのモチベーションとなる「強い原体験」、安心安全の空間で失敗から学べる「競争ではなく協創できる環境」が加わるのではないでしょうか。

世界の先進事例

 上記のような“未来の学校に求められる要素”を持った、世界の先進事例をいくつかご紹介します。

◆THINK Global School~世界初の“旅する学校”~  
3年間で12の国を回りながら、プロジェクト学習を行う、世界初の“旅する高校”。各滞在国では、8週間滞在し、各国の行政機関、企業、市民団体と関わりながら、プロジェクト学習を進めていく。これらのプロジェクト学習の中には、基本的な教科(英国数理社)の要素もうまく取り込まれた授業となっており、卒業生はハーバード大などの、東大よりもランキングの高い大学に合格していく。

◆High Tech High~全ての授業がプロジェクト学習~
統一カリキュラムが全く無い高校で、同じ学年でも異なるレベルのプロジェクト学習で学ぶことができる。また、定期テストもなく、地域に公開されるプロジェクト成果発表会で評価さ れる。運営面でも、私立にも関わらず公立の予算で運営される「公設民営方式」で運営されており、卒業生の35%は家族から初の大学進学者という。高い教育効果は、Most Likely To Succeedという映画にもなっている。

◆Millennium School~社会情動学習/発達理論を軸にカリキュラム設計された中学校~
Deeper Learning、Self Discovery、Real-World Exprlorationの3つが軸となっている学校。学年混合で自分の理解度とタイミングで選べる科目別授業と、マインドフルネス・社会情動習 を通じ学んだ心身の発達の知識を、週1日の学外活動を通して実社会の生活に活かしている。

本質的な問い
・学びを育む場所、智が創発される瞬間を導く場に
必要な要素は何か?
・私たちは、その場所で何をすべきか?

 

(2020年8月)

山本秀樹さん
東レ、ブーズ・アンド・カンパニーン(現Strategy &)、3Mで様々な営業・マーケティング・新規場業開発を経て、独立。AMS合同会社代表として国内外の企業に対する新製品の市場開拓、新規用途開拓支援、幹部候補生研修などを提供している。 2010年より会社業務と並行して「一生涯役に立つキャリア構築支援」を実施。2015年から2年間、ミネルバ大学の日本連絡事務所代表を務め、同校の日本での認知活動を行なった。6年前に滋賀県大津市に移住。1300年以上続く棚田で米作りのボランティアなどもしつつ、「志ある人が、どこにいても、自分の夢に向かって学べる環境を創る」ことを目指すDream Project Schoolを運営、 世界の先端教育事例の研究や中等教育から高等教育までのカリキュラム改革、 経営支援をおこなっている。 慶應義塾大学 経済学部卒業 ケンブリッジ大学 経営管理学修士(MBA) 著書 「世界のエリートが今一番入りたい大学 ミネルバ」(ダイヤモンド社) 「最難関校ミネルバ大学式思考習慣」(日本能率協会マネジメントセンター)

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