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特別レポート

国際教養大学

「就職率100%」「いまや東京大学と並ぶ難関」「従来の日本にはない新しいかたちの学びの場」

このような言葉とともに紹介される国際教養大学。いまから10年前に秋田県に設立された1学年170名の小さな公立大学法人の大学である。
なぜ、これほど注目されるのか。雪降る12月に現地を訪問して、お話を聞いた。

寒い北国の温かな学風

大学の所在地は秋田県秋田市。秋田市の市街地からは少し離れているが、秋田空港からは車で10分程度。羽田空港から秋田空港までは70分なので、東京から向かってもそれほど遠くは感じなかった。しかし、12月という時期もあって、折からの降雪。四方を森で囲まれたキャンパスは一面銀世界になっていた。
大学内に入って感じた。「外は寒いが、建物の中は暖かい。」
そう感じたのは、単に暖房による温度調節のせいではなかった。この大学には地元産の木材を使った温かみのある空間があり、そして何よりも学生たちの雰囲気が温かいのである。すれ違う学生たちが皆、私に向かって笑顔で挨拶をしてくれるのだ。小学校や中学校ではないので、挨拶運動や礼儀指導をしているわけではないだろう。これが大学の風土なのだ。全学生合わせても874名(2013年4月)という規模の小ささがアットホームな風土をつくり上げているのかもしれない。意外とこういうところがこの大学の強みなのかもしれない。

国際教養大学の6つの挑戦

国際教養大学の大学案内(2014年度版)はとても分かりやすく出来ている。大学の特色を「6つの挑戦」と称して端的にまとめている。

 (1)「授業はすべて英語」
 (2)「1年間の海外留学が義務」
 (3)「少人数教育と充実した教育サービスの提供」
 (4)「キャンパスは異文化空間」
 (5)「徹底した就職支援」
 (6)「ユニークな入試制度」

まず、授業についてであるが、入学するとTOEFLテストで英語力によるクラス分けをされ、まずは英語集中プログラムを受講する。ここで徹底的にアカデミック・イングリッシュを叩き込まれ、基盤教育、専門課程へと進んでいく。この間、後述する1年間の海外留学もあり、英語力は飛躍的に伸び、英語によるディスカッション形式の授業もできるようになるとのこと。
実際、見学させていただいた授業では、外国人の教員と10数名の学生がディスカッションを行っている風景が見られた。専任教員のうち55%は外国人。教員の外国人比率は日本の大学で3番目である。もちろん、日本人の教員も英語で授業を行っていた。

学生全員が1年間海外留学

続いて留学についてであるが、私は、この大学の一番の肝はここにあると思っている。学生全員が1年間の海外留学をするのである。この大学には世界41ヶ国、149の提携大学がある。そのほとんどが自ら足で稼いできた提携関係で、大学のプログラムとして交換留学ができるのである。交換留学ということは、相手の大学からも学生を受け入れることになる。つまり、常時150名以上の海外からの留学生がこの大学内に在籍している。学生の6人に1人は外国人ということになる。 確かに、学内を歩いていると外国人学生を多く見かける。普段のコミュニケーションが英語にならざるを得ない環境なのだ。

交換留学にはもう1つ大きなメリットがある。それは、留学先の大学の学費を払う必要がないということである。米国の私立大学などは学費がかなり高額で、日本人学生が留学できない大きな理由になっている。それが、公立大学の学費だけで1年間留学ができるのであるから魅力にならないわけがない。もちろん、海外に1年間留学していても、きちんと単位が認定され、大学は4年間で卒業ができる。これは大きな特色である。

学生一人ひとりをしっかりサポート

充実した教育サービスであるが、小規模ながらも工夫された施設が整っているのが特色の1つである。まず、24時間365日開館している図書館が素晴らしい。建物も秋田スギをふんだんに使ったとても美しいデザインで、最高の学習空間をつくり出している。国際教養大学を訪れた際は、ここを見ずには帰れない。
そして、図書館に付随した「能動的学修支援センター」が特徴的だ。これは、外国語学習をサポートする設備・機器が整っている「言語異文化学習センター」、個別学習指導を行うブースがある「学習達成センター」、大学院進学を専門的にサポートする「アカデミック・キャリア支援センター」の3つからなる複合体である。学生一人ひとりをしっかりサポートする体制が整っていることを感じさせる施設である。

多様な学生を受け入れる多様な入試制度

最後に、入試制度についても触れておきたい。一言でいうと、多様な学生を受け入れるために、多様な入試を行っているということである。その数、16種類。大学側からすればかなりの労力がかかると思うが、そこまでしてでも情熱と可能性を秘めた人材を見出そうとしているのだろう。
入試制度は大きく分けると、まず4月入学と9月入学に分かれる。大学がグローバル化するために必要だと言われている9月入試を、この大学はいち早く取り入れている。9月入試には、入学前のボランティア活動などを評価する「ギャップイヤー入試」も含まれる。これはユニークだ。
4月入学には、センター試験を利用する入試と利用しない入試に分かれる。センター試験を利用する入試は、いわゆる一般入試であり、科目や日程で3種類ある。センター試験を利用しない入試は、いわゆる推薦入試やAO入試を中心として6種類の入試を実施している。
もちろん、いずれも高度が学力が求められているが、これだけの種類の入試があれば、自分の熱意や得意分野を活かした受験ができるだろう。受験生にとっては大きなチャンスである。

「国際教養」という理念のもと新たな大学教育にチャレンジしている国際教養大学。これからのグローバル社会で活躍するグローバル・リーダーを育てるためにはリベラルアーツが必要だという考え方には共感できる。昨年急逝された中嶋嶺雄前学長がおっしゃっていた「教養は決断を下す」という言葉はリーダー教育における教養教育の重要性を示唆している。この大学が先鞭をつけたように、今後の日本においてリベラルアーツが見直されるかどうか、それが日本の未来を左右する鍵になるかもしれない。

[レポート:コアネット教育総合研究所 松原和之
2013年12月取材

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