G-Eduは、中高における「グローバル教育」に関心をお持ちの受験生・保護者の方を対象とした情報サイトです。

イシュー

グローバル教育 気になるキーワード VOL.1 国際バカロレア(IB) 国際バカロレア (IB)
解説:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之

最近、「バカロレア」とか「IB」という言葉をよく耳にしませんか。たぶん、グローバル教育と何か関係がある言葉だと思うけどよく分からない、という方に簡単に解説したいと思います。

まず一言でいうと、「国際バカロレア」は、「世界共通の大学入試資格とそれにつながる小・中・高校生の教育プログラム」のことです。英語では、「International Baccalaureate」(インターナショナル・バカロレア)と書き、「IB」(アイ・ビー)と略して呼びます。日本国内では「国際バカロレア」と言ったり、「IB」と言ったりします。ただし、良く知らない人に話す時には「IVY」(アイヴィ)と間違えられないように気をつけてください。「Ivy League」(アイヴィ・リーグ)といえば、ハーバード大学などの米国東部の名門私立大学のことになってしまいます。

さて、話を元に戻します。子どもを持つ保護者の立場から重要なのは、(1)IBの教育プログラムを受けると何が良いのか、(2)IBは国内ではどの学校で受けられるのか、(3)IBは今なぜ注目されていて、今後どうなるのか、という3点だと思います。そこを説明していきましょう。

(1)IBの教育プログラムを受けると何が良いのか

簡単にいうと2点です。1点目は「ディプロマ」という認定証書が世界各国の多くの大学で正規の入学資格や受験資格として認められていることです。海外の大学に進学したい人にとっては武器を手に入れることができるということです。そして2点目は、このIBの教育プログラムにはグローバルに活躍するための力を身につけることができる要素が含まれているということです。

まず、1点目の「ディプロマ」の話からしていきましょう。
IBは1968年スイスのジュネーブに設立されたインターナショナル・バカロレア機構(IBO)によって提供される国際的な教育プログラムです。IBOに許可・登録された学校で、その課程を履修して認定証書(ディプロマ)を取得すれば、世界100ヶ国以上、20,000校以上の大学で入学資格や受験資格として認められます。

例えば、イギリスではどの大学でもIBディプロマを入学資格として認めています。アメリカやカナダでは、IBディプロマの上級レベルの証明書は入学資格として認められ、1年を上限として大学での単位として与えられます。ただし、大学によって対応は異なりますので、実際にはよく確認をすることが必要です。

次に、プログラム内容の話ですが、教育プログラムは年齢に応じて3つに分かれています。
(1) PYP (Primary Years Programme:初等教育プログラム) 3歳~12歳
(2) MYP (Middle Years Programme:中等教育プログラム) 11歳~16歳
(3) DP (Diploma Programme:ディプロマ資格プログラム) 16歳~19歳

学校によって、どのプログラムを導入しているのかは異なります。3つすべてを導入している学校もあれば、1つだけの学校もあります。先述した「ディプロマ」を取得できるのは、ディプロマ資格プログラム(DP=ディー・ピー)を提供している学校のみです。

そして、2点目のグローバルに活躍するための力を身につけることができる要素が含まれているという話ですが、プログラムの内容すべてをここに書き表すことはできませんので、その理念や考え方、ポイントだけ記しておきましょう。

まず、理念ですが、IBOのホームページの「ミッション・ステートメント」にはこのように書いてあります。
「多文化に対する理解と尊敬を通じて、平和でより良い世界の実現のために貢献する、探究心、知識、そして思いやりのある若者の育成を目的としています。」 「世界中の児童・生徒に対し、他の人たちをその違いと共に理解し、自分と異なる人々にもそれぞれ理があり得ることが分かる、行動的で、共感する心を持つ生涯学習者となるよう働きかけています。」
これだけを読んでも、目指す教育が日本の通常の学校と違うことが分かるでしょう。

すべてのIBプログラムは、人類共通の人間らしさと地球を共同で守る心を知り、平和でより良い世界を築くために貢献する、国際的な視野を持つ人間の育成を目指しています。
そして、目指す学習者像として、次の10項目を提示しています。「探究する人」「心を開く人」「知識のある人」「思いやりのある人」「考える人」「挑戦する人」「コミュニケーションができる人」「バランスのとれた人」「信念のある人」「振り返りができる人」。

引用が多く概念論が続き、少し分かりにくくなってきたので、ポイントを絞って説明をしましょう。
ポイントは3つです。1つ目は「教科の枠にとらわれない学び」です。従来の日本の教育のように各教科を独立して教えるのではなく、各教科が横断的な関連を保ちながら、自己、地域、国、そして世界の成り立ちを科学的な要素を取り入れながら学んでいきます。

そして、2つ目のポイントは「探究」です。物事を深く多角的に見て、自分で考え、自分の判断で行動することが授業そのものに組み込まれています。
最後の3つ目は「育成のための評価」です。IBにおける評価は学びの成果を測るためだけのものではありません。生徒の学びを深め、進めるための形成的評価を行ないます。また、生徒たちは学んでいることが決してテストや受験のためではなく、グローバルマインドと自立した人間交流が出来る真の国際人へと成長するためだと理解しています。目指す目標を明示してから学習を始めますので、決してテストの点数だけに縛られません。

具体的な学習内容として、「TOK」(ティー・オー・ケー)だけ紹介しておきましょう。「TOK」とは「Theory of Knowledge」(知識の理論)の略です。TOKはDPの中核的な学習プログラムで、教科の枠を超えて、論理的思考力や批判的思考力(クリティカル・シンキング)、コミュニケーション能力などを養うための授業です。知識とは何か、知識をどう獲得すればよいのか、知識をどう使いこなすか、といった課題について、自分たちで問題を設定し、自ら学習していきます。いわば「正解のない問題」に対応していく力を身に付けるための学習とも言えるでしょう。
TOKの授業では、基本的に毎回グループ・ディスカッションを行います。生徒たちが様々な問題に直面した際に、どのような知識を使い、その知識が正しいということをどう相手に伝えるのかを考えながら議論をしていきます。とても深い議論をしますので、生徒たちの思考力を高めることに効果的です。あまり日本の学校の授業では見られない形態の授業です。
このように独特な授業を通じて、グローバルに活躍するための力を身につけていきます。

(2)IBは国内ではどの学校で受けられるのか

2013年10月現在で、国際バカロレアに認定されている学校は、世界146ヶ国、3,671校です。日本国内では27校です。この内、PYPは14校、MYPは7校、DPは19校で学習することができます。
国内27校の多くは、いわゆるインターナショナル・スクールです。日本の高等学校の卒業資格が得られる学校(学校教育法第1条に規定されている学校)は7校だけです。

  • 加藤学園暁秀高等学校・中学校
  • 玉川学園中学部・高等部
  • AICJ中学・高等学校
  • 立命館宇治中学校・高等学校
  • 東京学芸大学附属国際中等教育学校
  • ぐんま国際アカデミー
  • リンデンホールスクール中高学部

この7校の内、東京学芸大学附属国際を除く6校は、DPを導入しているので、IBに対応しているコースに在籍して卒業をすれば、IBディプロマと日本の高等学校の卒業資格の両方を得ることが可能です。

(3)IBは今なぜ注目されていて、今後どうなるのか

IBがにわかに注目されるようになった原因は、政府が「国際バカロレアDP認定校200校計画」を打ち出したからです。安倍内閣は日本が国際競争力を向上させるためには人材育成が重要であるとして、アベノミクス第3の矢である、2013年6月に閣議決定された日本再興戦略の中で、「2018年には国際バカロレアDP認定校を200校まで増やす」という目標を明記しました。そのことでマスコミにもIBが取り上げられることが増えたのです。
ところが、日本の学校がIBを導入するには、大きなネックがありました。それは、すべて英語で授業を行わなければならないということでした。IBで認められている言語は、英語、フランス語、スペイン語の3つです。これまで、日本でIB教育を行っている学校のほとんどが英語で授業を行っていました。
政府は、IBを普及されるためには、日本語を認定言語にしなければならないと考えIBOと交渉を続け、2013年に、DPの一部科目の授業と試験・評価を日本語で実施する「日本語と英語によるデュアルランゲージ・ディプロマ・プログラム」(日本語DP)が導入されることが決定しました。このことにより、2016年度の高校2年生から日本語DPの授業がスタートし、2017年には日本語DPによる認定者が出ることが可能になりました。つまり、現在(2013年度)の中学2年生がその最初の対象者ということです。
日本語DP校として認定されるための最初の申請が、2013年の10月から受け付けられましたが、5校が申請したと聞いています。
まだ、東京など大都市の国立や私立の学校がほとんどだと思いますが、今後、全国の公立高校でも導入が進むと思われます。こうなると、多くの人にIB教育を受けるチャンスが広がります。今後の政府やIBOの動向にも注目しておくべきでしょう。

(2014年1月)

PAGE TOP