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 研修センターレポート
  スクールコーチング・プログラムTALK:Teacher’s Active Listening for the Knowing
「生徒の気づきを引き出す教師のための傾聴法」

第2回
「コーチングで変わる教師と生徒の関係(上)」


  人材開発研修センター 所長 上田定
   
  いち早くコーチングに注目し、生徒との面談やHR活動、生徒指導、教科指導など、日々の教育場面に取り入れている教師たちがいます。
実際のところ、教師にとって、全く新しいスキルともいえるコーチングを教育実践にとり入れることで、何がどう変わったのでしょうか。教育現場におけるコーチングの効果について、教師としての率直な意見をお聞きしたいと思い、5人の先生方を訪問しました。そのうちの3人は、20年程の教職歴をもつベテランです。

コーチングは教師に何をもたらしたのでしょうか。先生方の話を通じてそのあたりを探ってみたいと思います。なお、この稿は、個別に実施したインタビューをテーマに沿って再構成したものであることをお断りしておきます。
   
 

■話のゴールを設定しなくなった

コーチングを知る前、個別の指導場面での様子はどうでしたか?

A先生
  (40代前半・男性)
  基本的には、生徒を呼んで、こちらが用意した「ゴール」に導くために、叱ったり、なだめすかしたり、激励したり‥ということをやっていました。それが生徒にとって必要なことで、自分としてはいいことをやっていると信じていましたからね。
B先生
  (30代前半・男性)
  呼び出して面談するんですが、ほとんどの場合、状況を聞いて(お説教をして)、「こうしたらどうだ」と提案するということになります。話すのは主に自分で、生徒は萎縮してあまり話さないという状態です。
C先生
  (20代後半・男性)
  教師になってから、生徒の話を聞くということを心がけているつもりです。でも、今中学生を担当しているんですが、いざ生徒との面談ということになると、話を聞きつづけることに我慢ができなくなって、つい口出ししてしまいます。特に生徒の話に整合性がないような場合はそうなりがちです。

従来の対応とコーチングはどこが違うと思いますか?

A先生   生徒と面談するとき、話のゴールを設定しなくなりました。話のプロセスを相手にゆだねるという感じですね。生徒の意識も違ってきたように思います。以前は、先生との面談は「避けたい」という感じだったんですが、今は「受けたい」という風に感じられます。これは、先生と話をしても(前のように)「叱られなくなった」ということがあるからだと思うんです。また、生徒主導で話が進むために、話の中身や展開が「痒いところに手が届く」というふうに受け止められている気がします。
B先生   一言でいうと、生徒に対して優しくなりました。今までは、大概「ダメじゃないか」という対応になりがちだったのですが、今は、どういうことでもまず「どうなの」と聞いて、本人に話させるようになりました。これは、1対1の場面だけでなく、1対多の場面でも同じで、生徒に対する話し方や聞き方が変わってきました。

■生徒との関係が深くなった

コーチングに対する生徒の反応はどうですか?

A先生   以前は話さなかったようなこと、例えば「自分の成績では無理なことは分かっているが、医学部を受けたいなあ」というようなことを、素直に話してくれるようになりました。また、やるといいながらやらなかったことについて、弁解しなくなりましたね。叱られないということもあるのでしょうが、もともと自分で設定した行動目標だったので、素直にできなかったと言いますし、できるようにするにはどういう目標設定が良いのかというような方向に話がいきます。
B先生   生徒はコーチングによって行動の継続性が生まれるので、先生と言葉を交わす機会が増えます。その結果、コーチングを経験した生徒は、他の先生に話し掛ける機会も多くなり、先生との関係が深まったように思っています。
C先生   生徒は言葉にすることによって、自分が感じていたことはこういうことだと納得し、それが行動の起点となります。例えば、苦手な科目に対して「参考書を買う」と宣言して、実際に買った子がいました。その生徒は、実は自分で参考書を買ったのは初めてだと打ち明けてくれたのです。ささやかな一歩にしか見えないかも知れませんが、その一歩が大事だと思っています。

ティーチングとコーチングの違いは何だと思いますか?

A先生   ティーチングは教師がやりたい指導で、コーチングは生徒がやってもらいたい指導。あるいは、ティーチングはジャッジで、コーチングはその前後に必要なフォロー。立場上、教師はさまざまな場面で生徒に関してジャッジしなければならないわけですが、その前提には、生徒がそのジャッジを喜んで受け入れ、それに従ってくれるという信頼関係が必要です。そういう信頼関係をつくるうえで、コーチングは有効だと思いますね。

■教師に必要なのは「傾聴」

生徒をコーチングするようになってから自分の中で変わったことはありますか?

A先生   前は「生徒性悪説」でした。放っておくと良くない、いい方向にはいかないと思っていました。ただ、今は担任を持っていないので気楽なことが言えるのかもしれません。担任を持ったときがチャレンジだと感じています。
C先生   いろいろな場面で生徒自身に考えさせようと意識するようになりました。最近作成した「三学期を迎えるにあたって」という文書も、コーチングを意識しないと、絶対に思いつかなかったと思います。例えば、「三学期を迎えるにあたって、今どんな気持ちですか?」とか、「それは具体的に、どんなことから感じているのでしょう?」のような質問がそうです。

コーチングのどういう点が教師である自分にフィットしていると思いますか?

A先生   大雑把で、ゴール設定をしないところかな。教師がゴール設定をしないことによって、生徒の可能性が広がるように思うんです。私学は、在学中だけでなく、卒業後も生徒との関係が続きやすいので、本人が自らゴール設定しそれに向けて頑張るのを教師が支えるという関係は、将来つまずいたりしたときにいつでも帰って相談できる環境でもあるでしょう。
B先生   生徒の感情を押さえつけない、感情に向きあうことによって「気づき」にもっていく、ということです。
C先生   レベル2、3の傾聴(注)が必要だという点です。今まではレベル1の傾聴が多かった。そのレベルでは、生徒は「説教される」と受け止めますが、レベル2、3になると「自分を受け止めてくれている」と感じるようです。教師は生徒の話をちゃんと聞けるかどうかが勝負だと思います。

 
注:「傾聴」
コーアクティブ・コーチングでは、話の聞き方を三つのレベルでとらえている。

レベル1‥相手の話を聞きながら、自分の考えや気持ち、判断などに意識が向いている状態。
レベル2‥相手の言葉だけでなく、声の調子や抑揚、感情にまで気を配りながら、話を聞く状態。
レベル3‥相手の言動だけでなく、場の雰囲気なども受けとめながら、話を聞く状態。

 

三人の話には共通している事柄があります。それは、コーチングを教室に持ち込み、生徒への個別対応のスキルとして実践したとき、生徒の反応や行動が変わってきたということです。その変化は、概ね次の三点に集約できます。

  1. 生徒が自分から行動するようになった。
  2. 生徒が本音を話してくれるようになった。
  3. 生徒が積極的に教師との関わりを持つようになった。

こうした生徒の変化は教師たちには驚きだったらしく、言葉の端々に「なぜそういうことが起こったのだろう」という戸惑いが感じられました。生徒の変化は、もちろん教師として大変喜ばしいことなのですが、一方で、なぜ今までこういう指導ができなかったのか、今までのやり方がどこか間違っていたのではないか、という苦い思いも感じていたようなのです。

それにしても、経験を積んだ教師にも予想できなかった生徒の変化は、どのようにして起こったのでしょうか。

「生徒の話をじっと聞く」ということ、その上で「適切な質問を投げかける」ということ、基本的にはその二つだけです。簡単そうに見えますが、三人が口をそろえるのは、「生徒の話を聞くことの」難しさです。そもそも「教師は生徒の話をまともに聞いていない」というのが三人に共通の見解です。なぜなら、教師は生徒の話を聞くためではなく、生徒に何かを言い聞かせるために、生徒と向かい合うからです。

ですから、ほとんどの教師は、生徒の話を聞く技術は全くといっていいほど訓練されていません。そもそも、そういうスキルが必要だという認識すらないといっていいでしょう。これでは教師が生徒の話を聞けないのは無理もありません。教員の資質・能力の問題というより、教員養成の問題だといえます

ともあれ、言葉だけでなく、声の調子や抑揚、感情の動きにも気を配りながら、相手の話をしっかりと受け止めてあげる、そのような話の聞き方を心掛けただけで、生徒の反応や行動が変わり、教師との関係も一段と深くなったという事実をまず確認しておきたいと思います。

(続く)
 
  第1回 「教師に求められる新たなコミュニケーションのあり方」
第3回 「コーチングで変わる教師と生徒の関係(下)」
 
 
 
 
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