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調査レポート
 
 教育インタビュー  
  これからの中高生の進路を考える
 〜起業家教育とキャリアプラン教育の可能性〜
  早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 大江 建
株式会社セルフウィング代表取締役 平井 由紀子
聞き手・・・コアネット教育総合研究所 上田 定
   
 
  大江建(おおえ たける)
大江 健 早稲田大学大学院 アジア太平洋研究科教授。
1964年日本大学理工学部物理学科卒業。
米メリーランド大学理学博士(Ph.D.)。
米コロンビア大学経営学修士(MBA)。
76年、大江事務所を創業しコンサルタントとして欧米企業の日本進出に携わる一方、日本企業の新規事業の参入にかかわる。
88年、社内企業研究会を設立して新規事業の研究を主宰する。
98年より現職。
主な著書に『なぜ新規事業は成功しないのか』(日本経済新聞社)、
『「起業家教育」で子どもが変わる!』(日本経済新聞社)など。

  平井由紀子(ひらい ゆきこ)
平井 由紀子 株式会社セルフウイング 代表取締役。
早稲田大学商学部、同大学院アジア太平洋研究科国際経営学部を卒業後、米国に起業家教育を学び、帰国後、大江 建氏の研究室において日本での起業家教育コンテンツを研究。
2000年3月に株式会社セルフウイングを設立し、起業家教育、キャリア教育に関する実体験型学習コンテンツの開発、指導者育成事業等を展開している。
主な著書に『子どもを伸ばす五つの遊び―小学生からの「起業家教育」のすすめ』(青春出版社)など。

  聞き手…
上田定(うえだ さだむ)
上田 定 コアネット教育総合研究所 研究開発室長。
株式会社クリエイティブスタッフ(日能研関東教務部)国語科・社会科主任を経て、教務部副部長。
2000年より現職。主に私立中学・高等学校の教職員向けの研究会、研修会の企画・運営に携わっている。
   
 
二一世紀の情報社会を迎え、社会で活躍する人材の要件が変わりつつあると言われています。目まぐるしく変わる環境の中で、次々に起こる問題を解決していき、新しいものを生み出していく。そのような人材が求められています。
翻って、中学・高校における教育を考えた時、どのような力を身に付けさせるべきなのか、生徒の将来を考えた時、どのような進路選択をさせればよいのか、これまでとは異なる視点が必要になっています。
今回は、小中高校生を対象とした「起業家教育」や「キャリアプラン教育」を実践されている、株式会社セルフウイング代表取締役の平井 由紀子氏と、それらのカリキュラムの理論的基礎をつくった早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授の大江 建氏をゲストに招き、コアネット教育総合研究所の上田が聞き手になり、座談会形式でお話を伺いました。
   
  上田 大江先生は二一世紀の情報社会を生きていく力として「起業家精神」にもとづく「生きる力」や「自分で考え自分で行動する力」といったものを挙げておられます。そして、これらを身に付けるために早期から「起業家教育」を行うことが必要であると説かれています。 「起業家教育」は最近クローズアップされ始めていますが、まだまだ日本の教育現場では馴染みがありません。まず、「早期起業家教育」の必要性をお感じになられたきっかけやその内容についてお教えいただけますか。
  起業家教育は大学院では遅い
 
大江 必要性を感じたのは五年位前でしょうか、私が大学院で「起業家精神」(アントレプレナーシップ)についての講義をし始めた頃からです。
  当時、私は企業の新規事業や社内起業の研究をしておりまして、大学院で「起業家精神」養成のための講義を行っていました。
  ところが、実際に教えていくうちに、大学院生が興味を示すのは、「自分で事業を起こす」ことではなく、「アントレプレナーシップの定義」や「起業する人の支援者になる」ための知識の習得が中心だと気付いたんです。
  そのときですね、大学院生くらいの年齢になってからでは、アントレプレナーシップを身に付けようと思っても遅いんだと感じたのは。
  そして、実際に大学生対象のアンケート調査をしてみて分かったんです。中学生以下の年齢の時に「ベンチャー」とか「起業家」などを意識した学生ほど起業家志望率が高いんですね。つまり、早期に起業家を意識した人ほど大人になってから起業家になろうと思うということですね。

平井 私は、大江先生のご指導も得ながら実際に「早期起業家教育」を実践しているんですが、小中学生などを対象に「起業家教育をしましょう」と言うと、必ず言われるのが、みんな「起業家にならなければいけないのですか?」、「みんなベンチャーやるんですか?」ということなんです。
  「起業家教育」という言葉はとても誤解されやすいのですが、アメリカで使われていた「アントレプレナーシップ」を日本語で訳した時に「起業家精神」、それを育てるのが「起業家教育」になってしまったんですね。アメリカでいう「アントレプレナーシップの教育」というのは、「経済的な自立教育」という意味なんです。それは、別に起業家にならなくても、どの職業に就くのであっても必要なものなんですね。
  ですから、日本で一般的に言われている「起業家教育」というのは、二種類あると思います。一つは、「創業者、ベンチャーを育てよう」というもの。もう一つは、大江先生と私たちが考えている「どの職業に就くためにも必要なもの」です。
  私どもが子どもたちに起業家教育を実践する時のカリキュラムにおいては、起業家的な「メンタリティ」が重要視されています「自分は何がしたいのか」「何が得意なのか」を発見し、それを他者に評価されることで自信を持ち、生きることの喜びや、自己に対する価値を見出すことを大切にしています。

上田 なるほど、「起業家教育」と言っても、必ずしも「起業家を目指す教育」ではないということですね。今の日本では「起業家」というと、なんとなく山師的な感覚があって、必ずしも尊敬される存在ではないという風土がありますよね。これはアメリカとは全く違いますね。
  日本でも、これからは、もっとアントレプレナーシップが求められる時代になってくるような気がします。そのへんはいかがでしょうか。
  時代は起業家教育を求めている
 
大江
 経済界から見ると、山一證券が倒産したころから「大企業に入れば一生安泰」という価値観が崩れてきていると感じています。終身雇用という日本の伝統的システムが崩れ、「会社に寄りかかってはいられない」「自分の力で何とかしなければならない」という感覚を持ち始めている人は増えていると思います。
  しかし、そうは言っても「いい学校に入って、いい会社に」という価値観が全くなくなるかと言うとそうではないでしょう。「そういった生き方が全てではない」という考え方が生まれてきているんだということだと思います。

平井 私たちはよく「日本の教育改革をしたいのですか?」と聞かれるのですが、そうではなく、子どもたちにたくさんの選択肢を用意してあげたいと思っているのです。その中の一つとして「自分で事業を起こすということもあるよ」ということを示してあげたいという気持ちが大きいのです。

上田 この先「自分で事業を起こす」という選択肢は増えていくと思われますか?

平井 日本の創業率、独立志望者数は、先進国の中では圧倒的に少ないのが現状です。そこで、どの時期に「起業家教育」を受けると「独立したい」と強く思うようになるかというと、先ほどもお話に出たように、中学生以下の時がいちばん効果的なのではないかと思っています。
  しかし、この年代に「起業家教育」を行う場合、経済教育の部分はあくまで方法論としてあるのであって、あまり重要ではありません。擬似的に事業を起こし、お金を稼ぐという過程の中で「不確定要素が生じたときの対処の仕方」、「最初にプランしたことと違うことが起こったときにどうするか」ということを学んでいくことのほうが重要です。
  先ほども申し上げましたが、「失敗を恐れない」メンタリティを養うということが大切なんですね。そういうことは、中学生以下のときに経験して、インパクトを与えておくのが、いちばん効果的なのです。そうすれば、大学生になるころには、「独立してみようかな」「チャレンジしてみようかな」という考え方が自然とできるようになります。
  日本では、子どもへの経済教育やキャリア教育というものを敬遠しがちだと思います。大人になってからの選択肢を増やすためにも、インパクトが強い年齢のときにそういう学習を体験して欲しいと思っています。スポーツでも芸術でも道を極めた人は、「自分でも覚えていないような幼いころから始めていた」ということが普通に言われていますよね。経済教育も同じような視点で考えるといいと思うんです。

上田 スポーツ選手などは幼い頃から始めていたという事例も多いですよね。それは、もちろん技術面での上達という意味もあるのでしょうが、メンタルな部分も大きいと思います。また、将来の目標像のようなものを具体的に描くことも大切なんだと思います。
  経済教育と言いますか、職業選択のような面でも、小中学生の時からメンタリティを育てるということが大切だという考え方が広まっていくといいですね。

平井 そうですね。まずは裾野が広がって行くことが大切です。
  しかしそれは、今まで日本で行われてきた教科書をベースとした画一的な知識を教える教育がいけなかったということを言っているのではありません。戦後の混乱期から始まり、高度成長期にわたって、いわゆる工業社会の中では、その時代にあった教育をしてきたわけですから、それは必要なものだったと考えています。今は、時代が少し変わってきていますので、それらも大切だけれども、教育に関しても、もう少し選択肢が増えてもいい時期ではないかと考えているのです。

上田 日本の社会においては、今まさに「起業家教育」のような考え方が必要になってきているのですね。そういう意味では先行している海外の事例は何かありますか?
  米国では体系的に起業家教育が行われている
 
大江 私が「起業家教育」について考えたヒントは、アメリカにありました。
  たとえば、スヌーピーのマンガのなかで、チャーリーブラウンがレモネードスタンドを作って販売をしている様子などが描かれていますが、アメリカではそういうことが、大人になる前のプロセスの一つとして実際に行われているようです。

平井 私も大江先生と一緒にアメリカ視察に行ったのですが、そこで研究してきた「起業家教育」の教材を、そのまま翻訳して日本に持ってきても実現は難しいだろうと感じました。日本とアメリカではそもそもの土壌が違うんですね。それで、日本向けの教材の開発を始めることにしたんです。
  アメリカでは、「起業家教育」の場作りは、きちんと体系立てられています。
  その一例が、施設の充実です。小学校の低学年頃から、経済教育のための疑似体験ができる場所が用意されています。経済教育ばかりではありません。他の教科でも、目的に合った擬似体験ができる施設なども充実していました。
  学校においても、たとえばクリスマスの時期には子供たちだけでちゃんとお店が出せるように、出店に必要なものを全部パッケージにした教材が用意されていたり、またそれらを普及するための勉強会なども度々行われています。
  こういった教育の場づくりは、教育系NPOの力によるところも大きいようです。アメリカでは、こういった教育が「官」ではなく「公」の立場で行われているんですね。つまり、中央省庁が全国一律に行うということではなくて、NPOのようなところが中心になって、企業からお金を集めたり地域のコミュニティや学校の先生を巻き込んだりして、色々な力を集約してやっています。どちらかというと「官」と「公」が一緒にされることが多い日本とはちょっと違いますね。

上田 そうですね。日本では「公教育」といっても、実際は文部科学省が全てコントロールする「官教育」のようにも感じられますね。日本の社会の中で、地域の協力を得るということは難しいのでしょうか?

平井 地域と言いますか地方自治体から依頼があって「起業家教育」を行う場合は、なかなか難しい面もありました。
  たとえば、英会話のように「参加すれば英語が上手くなる」という分かりやすいものなら良いのですが、「起業家教育」によって身に付くものは何かということがはっきり見えないので、そういうものにはお金は払えないという考え方もあるようです。
  日本で「起業家教育」を本気で実行するのはとても大変なことだと思います。実際に擬似的に起業を体験させようと思っても、子どもたちが立てた事業計画について、「融資可能なのか」ということを、きちんと判断したりしなければなりませんので、「誰がやるか」ということになると現実に厳しい状況です。

上田 そうですね。現状の日本の社会の中では、地域の人々が協力して子どもたちを教育しようという雰囲気も少なくなっていますし、実際にやろうと思っても、起業したことがある人がたくさんいるわけでもなく、事業を最初から最後までトータルに見ることのできる大人がほとんどいないのではないでしょうか。
  そういう意味では、大江先生や平井さんが始められた「早稲田ベンチャーキッズ」のようなきちんとしたカリキュラムがあることはとても大切なことですね。
  現実の社会と同じコトをきちんと体験させることが重要
 
大江 私どもが展開している起業家教育プログラムの「早稲田ベンチャーキッズの特徴は、「本物のお金」を使って、「本物の商品」を作って売るということです。
  手間がかかりますが、実際に本物の商品を作って、本物のお金でそれを評価してもらうということが重要です。そうしないと子どもたちも真剣にならないと思います。

平井 実際のカリキュラムの最初はプレゼンテーションなどを通じて、「相手と自分の相違点」を理解し、会社を立ち上げる作業の中で、自分にできないことができる人を探すなどのことから始めていきます。この「チームを作る過程」が、子どもたちにとっていちばん大切なカリキュラムだと思っています。
  それから、特に小学生の場合は、「製造業」の過程を行うことを基本にしています。物を仕入れて付加価値をつけて販売するよりも、物を作るという過程を体験してもらう方が、より経済のしくみが分かると考えています。
  また、全員がほめられる機会があることも重要です。会計が活躍する場では会計マネージャーに、仕入れが活躍する場では仕入れマネージャーに、トレーナーが問い掛けをし、全員がきちんと自分の持ち場で活躍して、主役になれるようなカリキュラム作りをしています。ここで経験したことが、ひとりひとりの、成功体験に結びつくことが大切なのです。
  もう一つは逆説的ですが、小さな失敗をたくさんさせるために、子どもたちの考えていることに関して不確定要素が生まれるような仕組みも作っています。失敗しても、そこから学んでいけるようになって欲しいということです。
  また、最後の利益配分のときに自分たちでもうけたお金をどう使うのか?ということを、きちんと考えてもらうことも重要です。
  自治体などで「起業家教育」をする場合、最初から稼いだお金は、「寄付する」とか「学級費にする」とか決められている場合が多いのですが、これだと子どものモチベーションもガクッと落ちるんです。自分で稼いだものを、自分の意思で使い道を判断するということを、子どもなりの概念の中で経験しておいて欲しいと考えています。

上田 今年、私立中学でも起業体験プログラムをおやりになったそうですが、そのときのエピソードが何かありましたらお聞かせください。

平井 今年の五月に、都内の私立女子校の中学一年生を千葉のマザー牧場に連れて行って起業プログラムを体験してもらいました。商品開発、収支計画づくりを行い、作った商品は実際に牧場で販売しました。このときは、通常のプログラムよりも時間が短かったのと、参加人数が二百人くらいの大人数だったので、特殊プログラムを作って対応しました。
  短い時間でしたが、生徒たちはとても真剣に取り組んでくれました。「プランが上手く進まない」などの小さな失敗もいろいろと起こり、なかには「もう一緒にできない」「こんなんじゃ儲からない」と、会社分裂の危機に瀕したチームもありました。そういうチームには、もう一回みんなで話し合いをする場を与えます。サポートすることによって、良い解決方法が見つかり、最後にはちゃんとやれるようになりました。

上田 公立中学校では、総合的学習の時間を使って、新たにこのようなプログラムを取り入れようという試みもあるかもしれませんが、私学ではそもそもこういったプログラムを独自に行っている所も多いと思います。
  私学でこのようなプログラムを実施しようと思うと、日常の授業時間の中に取り入れるというよりは、この女子校で実施したように、遠足や校外学習の日を一日使って行うという方が現実的だと思います。
  ところで、話は変わりますが、平井さんは、中高生の「キャリアプラン教育」というものも実践されていますよね。
  「キャリアプラン教育」は「気付き」のプログラム
 
平井 中高生は、大学や専門学校への進学や就職という自分の進むべき道を確認し、希望するキャリアの方向性との整合性を図らなければならない大切な時期だと思います。
  私たちの提供している中高生における「キャリアプラン教育」は、いわば「気付きのプログラム」と言えます。
  「自分は何に向いているのか」という自己分析と、外部から見られている自分と自己との相違点などを気付いてもらい、その上で「自分は何のために受験をするのか」とか、「何に向いているのか」ということに気付いてもらおうというのがプログラムの中心です。
  私が「キャリアプラン教育」ということについて考え始めたのは、日本とアメリカの高校を見て回っていたときです。
  「将来やりたいことは何?」と問われているアメリカの子どもたちの進路指導を見て、うらやましいなと感じました。「君はこの点数だから、ここに行きなさい」と指導されている多くの日本の子どもたちとの格差を強く感じたのです。そこで、日本の子どもたちにも「将来やりたいことは何?」と聞いてもらえる場をもう少し作ることができたらいいなと考えたんです。

上田 キャリアプランの、「キャリア」という言葉は、日本では曖昧なかたちで使われているように思うのですが、こちらで言われている「キャリアプラン」というものは、どういう意味で使われているのでしょうか?

平井 私たちは「キャリアプラン」を「フューチャーマップ」という言葉で表しています。一般的な「キャリア」という言葉の印象と、私たちのやりたいことが違うので「フューチャーマップ」という言葉を選びました。「自分の将来の地図を描いていこう」という意味のほうが、私たちの教材の実態により近いと考えています。

上田 こちらが考えられている「キャリアプラン」…「フューチャーマップ」という言葉の意味は、「どういう職を選んでいくか」ということなのでしょうか?

平井 そうです。自分が「どういう働き方をしたいか」を考えるということです。一生同じ場所で働きたい人もいるかもしれないし、会社に勤めてから起業したいとか、自営業をやりたいとか、働き方にもいろいろあるということに気付いて欲しいと思います。
  とくに女性の場合、どこかでキャリアを中断して、結婚したり、子供を生んだりという選択をしなくてはいけない場面も出てくるでしょう。そんなとき、育児が終わって「働く場がない」と悩んでも遅いのです。ちゃんとプランを立てて準備していないのに、急に「仕事が欲しい」と思っても無理です。そこで、将来キャリアを中断するようなことがあっても、そのあと再び働くことができるような資格を取っておくなどのプランを、若い今のうちから考えておくと良いですね。ある意味、これはライフプランとも言えるかもしれません。
  多様な将来の選択肢があることを見せておきたい
 
大江 子どもたちには、世の中にはいろいろな選択肢があるということを見せておきたいですね。
  今の日本は、子どもたちが選べる将来の選択肢があまりに少なすぎます。私たちは、こういう擬似体験をすることによって、子どもたちの選択肢の幅が広がることを目指しています。

上田 そうですね。とくに男子校の場合、働き方…キャリアイメージというものがあまり広くないように感じます。目の前に大学進学があって、中高はそのための勉強をするところである、という感じを強く受けます。反面、女子校の場合は、それだけではなく、もっと幅広い選択があるように思います。
  これから女性が社会進出していく上での考え方として、キャリアプランについてはどうお考えでしょうか。やはり女性のプランは、男性とは違いますか?

平井 女性と男性のキャリアプランについては、分けて考えた方が現実的だと思います。
  やらなくてはいけないことなど、内的要因は変わらないのですが、外的要因が違うと思います。先ほどお話しましたように、結婚や出産など女性にはキャリアとは別の部分で選択しなくてはいけない場面が多いのです。男女で違う外的要因をどう解決していくかということは難しいことです。できれば次の世代の女性たちは、そういったことで悩まなくてもよいような道筋ができればいいですね。
  反対に男性のキャリアプランは、平坦なものが多いです。ライフワークを書いてもらっても、「働く」というひと言。「育児はどうするの?」と問い掛けても、「そんなこと、なんで僕らがやらなきゃいけないの」という認識のようですね。
  自分は何のために大学に行くのか
 
上田 先ほどの「気付き」の話に戻りますが、これまで中高、とくに私学では、「いかに良い大学に入るか」という大学進学が前提になった教育が多く行われていました。
  しかし最近、私学の中高一貫教育だからこそできることの一つとして、子どもたちに「自分は何のために大学に行くのか」という気付きを与えたいと考え始める私学も出てきました。
  そういう私学に対して、今後「キャリアプラン教育」などを導入していくと良いと思うのですが、いかがでしょうか?

平井 是非、導入していただきたいと思います。生徒自身が自分のキャリアプランを考え、結果として「いい大学に行く」と決めるのはとても良いことです。
  「エリート教育」と言うと誤解されることも多いのですが、こういうことを堂々とやっていないのは日本くらいです。
  日本では「東大を目指します」などと言うと、「勉強ばっかりして…」と悪いことのように言われることもあります。でもそれは、自分で立てたキャリアプランの選択肢の一つとして、「東大へ行く」ということを自分で選択したわけですから、堂々と「私は東大に行きたい」と答えてもいいのではないでしょうか。

上田 中高時代、自分から自発的に「勉強しよう」という気になっていなくて、「やらされてきた」という経験しかないという子は多いと思います。「勉強」=「受験勉強」というイメージなのでしょうね。

大江 「キャリアプラン教育」は、「自発的にする」ということをとても重要に考えています。そうしないと次々と変わっていく時代に追いついていけません。
基礎学力は必要ですが、頭のなかは詰め込みの知識だけではなく、何でも受け入れられるように柔軟にしておかないといけません。
  私は、起業家精神は、動物的本能だと思っています。なるべく失敗や怪我をしないようにと、見慣れないところを敬遠するということは、動物的本能を使わなくていい状態です。そういう本能がなくなっている状態が、今の日本でしょう。私たちは、この日本という環境のなかでしか生きられなくなってしまっているように見えます。工業時代の成功体験が長すぎたのも原因かもしれませんね。

上田 このプロブラムに参加した子供たちが、大人になって実際に起業家として活躍してくれるのが楽しみですね。

大江 ありがとうございます。
  このような教育が日本に広がり、もっと多くの子どもたちに経験できる機会が与えられるようにと願っています。

上田 中高生の進路を考える時、将来生きていく社会がどのようになっているのかを考えておくことは非常に大切なことです。大江先生がおっしゃるように変化のスピードが速い世の中で活躍するためには、次々と起こる問題を自ら解決していく力、失敗してもまた挑戦できるメンタリティなどは大切なことだと思います。ただし、やはり従来型の基礎的な学力は絶対に欠かせないもので、特に私学はこの点を外して考えるわけにはいきません。
  学習指導要領の改訂に際して、「学力か、生きる力か」という論争が巻き起こっています。しかし、これは「どちらか」という話ではないと思います。特に私学は、これまでの学力を維持・向上させながら、さらに新しい時代に合わせた「生きる力」も育てていく、という難しい要求を突きつけられているのではないでしょうか。そういう意味で、今日のお話は私学にとっても参考になるものだったと思います。大江先生、平井さん、貴重なご意見をどうもありがとうございました。

   
  「私学マネジメントレビュー」第5号(2002年8月発行)より転載
   
   
 
 
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