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特別レポート

早稲田大学系属 早稲田渋谷シンガポール校

特別レポート第1弾は、早稲田渋谷シンガポール校をとりあげる。高等学校3学年、約300名の生徒が在籍するシンガポールにある学校だ。取材には、事務局長の平野泰先生に応じていただいた。

主にシンガポール及び近隣諸国に在住する日本人のための高校で、現在は日本からの留学生は募集していない。つまり、保護者が日本で仕事をしている場合は受験できないということだ。平野先生によると、「以前は、日本からの留学生も受験できることになっていましたが、在外の方の希望が多く、設立の趣意も踏まえて、留学の仕組みは休止しました。」
実際、卒業生の約半数が早稲田大学に入学できることもあって人気が高く、入試の実質倍率は約2倍にもなる。日本からの留学生を断らざるを得ないというのは仕方がないことだろう。

学校に併設している寮には全校生徒の半数近くが入っている。「シンガポールだけではなく、中国、韓国やタイ、オーストラリア、遠くはブルガリアやトルコまで、保護者の在住国は広がっています」と平野先生が言うように、東南アジアを中心に全世界から生徒は集まってきているため、入寮する生徒も多いようだ。

寮は、男子寮と女子寮が別棟になっており、全室個室である。比較的広く清潔な部屋である。カフェテリア(食堂)は男女寮とは別棟となっており、寮生は1日3食ここで食べることができる。広さは十分なので、寮生以外も昼食などをここで食べることができる。

校庭は広くはないが全面芝生が敷きつめられている。体育館は屋根はあるが壁はない。平野先生曰く「密閉されていたら暑いので熱を逃し風を通しやすい構造にしている」とのこと。日本の学校では見たことのない形式だ。赤道直下の国、シンガポールならではの施設だ。シンガポールならではと言えば、プールが中庭に設置されており、壁や囲いがない。「いつでも入れるようになっている」(平野先生談)とのこと。周りの熱帯系の植物とあいまってリゾートホテルのようである。

1学年3クラスなので、校舎はあまり大きくないが、設備は整っている。図書館は蔵書数も多い(3万冊)。「日本の書物を豊富に揃え、日本語に触れられるようにしている」(平野先生談)とのこと。図書館の隣はコンピュータ教室だ。当日も情報の授業をしていた。

生徒たちは私服で授業を受けている。平野先生によると「制服はあるのですが、公式な行事の時だけ着用し、普段は私服でもよいことになっています」とのこと。感心するのは、すれ違う生徒全員が私に挨拶をしてくれることだ。女子だけでなく男子も恥ずかしがらずにハキハキと挨拶をする。とても快活で礼儀正しい生徒たちだ。東南アジアの風土が子どもたちを明るくするのだろうか。挨拶は世界共通のコミュニケーションの入口である。その点、この学校の生徒はコミュニケーション力が高いのかもしれない。

さて、カリキュラムであるが、早稲田渋谷シンガポール校は文部科学省が認める私立在外教育施設なので、基本的に学習指導要領に沿っている。授業も英語以外は日本語で教育している。シンガポールにありながら、日本と同レベルの教科教育が受けられる。つまり、日本の大学受験にも対応できる。「約半数が早稲田大学に進学しますが、それ以外は、国立大学や医学部も含めて他大学へ進学します。海外の大学に進学する生徒は現状ほとんどいません」と平野先生が言うように、特に海外大学進学を勧めているわけではない。

しかし、生徒の英語力は高いようだ。英語の授業では早稲田大学で行っているチュートリアル・イングリッシュを取り入れ、3~4名が1クラスの英会話レッスンを受けている。また、シンガポールは英語が公用語の国である。日常生活の中でも英語に触れる機会は多い。

「日本人学校では中学部までバスで送り迎えをしていますが、本校ではあえて公共交通機関を使って通学させています。シンガポールは治安も良く、地下鉄やバスなどの交通網も発達しています。通学に危険や不便はありません。こうして地元の環境に触れさせることで、自然とダイバシティに対応ができる生徒が育ちます」(平野先生)。
シンガポールには、中国系の人、マレー系の人、インド系の人が混ざって生活をしている。人種も多様だし、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教など宗教も多様だ。世界的にも珍しい多様性が凝縮した国にあることのメリットをうまく活かしていると言えるだろう。

学校として、地域との交流も欠かさない。毎年9月に行う文化祭には3,000人弱の人が訪れるというが、そのうち6割は地元の人らしい。「文化祭ではうどんなどの日本食も提供しています。外国では日本式の文化祭は珍しいらしく、地元でもとても人気があります。生徒たちが行っているお化け屋敷は、2時間待ちの行列ができたこともあります」と平野先生が言うように、日本人学校でありながら、地元に対するオープンな姿勢を示している。
これからのグローバル社会においては、ダイバシティ対応はとても重要だ。多様な人々と臆することなくコミュニケーションをとることができ、協力しあって新しいものを創り出せる人材。これからの世の中が求める人材がこの学校では育っているのではないかと感じた。

[レポート:コアネット教育総合研究所 松原和之
2013年9月取材

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