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イシュー

グローバル教育 気になるキーワード VOL.6 「探究」(Inquiry)「探究」(Inquiry)
解説:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之

「探究」がなぜ注目されているのか

いま教育界では「探究」が注目されています。なぜかというと、2022年度から新しく導入される高等学校学習指導要領の中で、「探究」という名がつく科目が一気に新設されるからです。

「理数科」は、理科の先生か数学の先生が教えることになる教科横断の新教科ですが、科目としては探究科目しかなく、探究学習のために新設された教科だといってもいいでしょう。

この他に、地理歴史科の中に「日本史探究」「世界史探究」「地理探究」が、国語科の中に「古典探究」という科目が新設されます。

いずれも選択科目であり、すべての生徒が履修するわけではありませんが、「日本史探究」「世界史探究」あたりは普通科の多くの生徒が履修することになりそうです。

そして、大きい変化は、最低2単位は誰もが履修することになる「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」と名称変更することです。

うーん、もともと2002年度に導入された時点から「総合」は探究学習をする時間だったはずなので、はじめからこの名称にしておけばよかったのに、なぜ今さら?それも、小学校、中学校はそのままで、なぜ高校だけ名前が変わるんだ?という疑問はさておいて、いま「探究」がホットなことは分かっていただけたでしょう。

「探究」(探究学習)とは何か

では、この探究という名称がつく科目は他の科目とどのように違うのでしょうか。探究学習とは何なのでしょうか。

文部科学省はこのように定義しています。
「問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく一連の学習活動のこと」

つまり、問題解決型の学習ということです。これまでの一般的な科目が、ともすると知識・技能を習得させることを中心にした授業になっていたのに対し、自ら課題を発見し、その課題を解決するためのプロセスを体験しながらスキルを習得していくというような実社会に通用するような資質・能力を育てる学習が「探究」だということです。

これから、グローバル化し、AI(人工知能)化していく社会の中で、我々に求められる資質・能力は、主体的に問題発見・解決し協働しながら新しいものを創造していく力だと思います。そのよう資質・能力を育てるのが探究学習といえるでしょう。

世界共通の大学入学資格として世界的に注目されている「国際バカロレア(IB)」においても、目指す10の学習者像の中に「探究する人」という項目があり、「探究」が世界的にも重要視されていることが分かります。

探究学習は、既に一部の高校で、主に総合的な学習の時間の中で実施されています。また、SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)やSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)に指定されている学校では、活発に探究学習が行われています。

さらに、京都市立堀川高校の成功で注目されたのを契機に全国の県立高校で専門学科としての「探究科」を設置する高校が増えています。私立中高一貫校でも、埼玉県の開智中学校・高等学校、東京都の安田学園中学校・高等学校、大阪府の清教学園中学校・高等学校など多くの学校で「探究」という名称の授業が行われており、今回の学習指導要領に探究科目を導入するに至る先導的な役割を果たしています。

実際の探究学習

では探究学習とは実際にどのように行われるのでしょうか。探究学習は生徒の自発的な疑問から始まります。生徒たちが生活の中で「なに」「なぜ」「どうやって」など疑問を持つことが始まりです。そうやって起こった疑問を解き明かそうとするのが「探究」です。

疑問を解き明かすためには、「課題の設定」→「情報の収集」→「整理・分析」→「まとめ・表現」→「振り返り」→「新たな課題の設定」という活動のサイクルを繰り返すことになります。


出典)高等学校学習指導要領解説総合的な学習の時間編(2009年7月)

 

まずは、はじめに持った素朴な疑問を、きちんとした「問い」にします。例えば、動物園で孔雀(くじゃく)を見て、「なんで孔雀の羽は大きくて派手なんだろう」という疑問を持ったとしましょう。羽が派手なのは雄だけで、雌はそうではないということぐらいは動物園のその場で知ることができるでしょう。そこで、この興味・関心を膨らませて探究学習をするために、「なぜ孔雀の雄は派手な羽を持つのか」という「問い」を立てます。

「問い」の次には、自分なりの仮説を考えます。例えば「孔雀の雄は雌の気をひくために派手な羽を広げるのだろう。種の保存のために有用なのだろう」と。この仮説を検証するためには、いくつか調べなければいけないことがあります。ここで「課題を設定」します。①本当に雌孔雀は雄孔雀の羽の模様にひかれるのか、②大きく派手な羽は目立ち過ぎて天敵から狙われやすくないのか、③狙われやすくて生き残っていけるのか(種の保存に反していないか)、などです。

こうして課題が設定されると、それぞれについて「情報を収集」します。情報はインターネットでも探せると思いますが、きちんと検証するためには信頼できる出典に頼る必要があります。図書館などの書籍で調べることが必要です。また、必要に応じて実地調査やインタビュー調査などのフィールドワークを行うこともあります。そして、収集した情報を「整理・分析」して、さいごに、論文やポスター(模造紙)、プレゼンテーションなどにまとめ、発表します。

大事なのは、さいごにまとめた際に、分からないことが残ったり、新たな課題が出てきたことをまとめておくことです。それが次の探究活動につながっていきます。

探究で身に付く力

先ほど探究学習で身に付く資質・能力は「主体的に問題発見・解決し協働しながら新しいものを創造していく力」だと述べましたが、具体的にはどのようなことでしょうか。そして、そのような資質・能力が身に付いたかどうかをどのように評価するのでしょうか。

主体性や問題発見力、問題解決力、協働する力、創造力などは、なかなかペーパーテストでは測れません。学習の結果アウトプットした発表物(論文、プレゼンテーション等)や学習のプロセスでどのような活動をしたか(どのような力を発揮したか)が評価の対象になります。そして、それらの評価は何らかの達成水準が明確にされていないと確かな評価はできません。そこで注目されているのが「ルーブリック」です。探究学習を先進的に推進する学校にはルーブリックをつくっている学校が多く見られます。

では、ルーブリックとは何でしょうか。簡単にいえば、評価するいくつかの項目(評価規準)に対して、5段階程度の達成すべき水準(評価基準)を言葉で書き表したものです。評価したい資質・能力の項目が10個あって、S・A・B・C・Dの5段階の基準があれば、10×5の50個のマス目があるマトリクス表になるということです(ルーブリックについてはこちら)。

このようなルーブリック表を予め用意しておき、探究学習を始める際に、それを使って生徒に目標を提示します。例えば「問題発見力」ではAを目指す、「協働する力」ではBを目指す、といったような感じです。そして、学習の途中でも目標を意識させ、適宜フィードバックしながら、学習の区切りにおいては振り返り評価をします。方法としては、教師による評価だけでなく、自己評価や相互評価(生徒同士でお互いを評価する)の場合もあります。

いずれにしても、探究学習においては、知識の習得よりも、結果の出来栄えやプロセスにおける力の発揮に評価の重点が置かれます。

探究のポイント

探究学習はこれまでも一部の学校では行われてきましたが、今後はほとんどの学校が行っていくことになると思います。しかし、何事もそうですが、形だけ真似しても成果は出ません。本当に効果のある探究学習を行うためにはどのようなことに注意すればよいのか、生徒を学校に預ける保護者の視点でいえば、どのような探究学習を行っているところが良い学校なのかというポイントを整理しておきましょう。

まずは、探究の「スキル」をきちんと教えているかどうかです。探究学習は問題解決のプロセスですので、ビジネスの現場など大人の社会でも行われていることがベースになっています。つまり、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という学習の過程のそれぞれにおいて、過去の経験によるノウハウが理論化され蓄積されています。生徒による主体的な学びだからといって野放しにして自由に活動させるのではなく、基礎的なノウハウやスキルはきちんと教えるべきです。それらのスキルを身に付けることが資質・能力を向上させることにつながります。

中には「なかなか自分の意見が言えない」とか「人前で話すのが苦手」というような生徒もいるでしょう。それは性格だから仕方がないという見方もあります。しかし、きちんとスキルを学べば、その性格を超えてきちんとディスカッションやプレゼンテーションができるようになる生徒もいます。それほどスキルは大事なものです。

2つ目のポイントは、学習活動に「フィールドワーク」を取り入れているかどうかです。フィールドワークとは現地・現場での調査・研究のことです。つまり、実態や実物、本物を見るということです。フィールドワークは活動としては「課題の設定」と「情報の収集」の場面に行うことがあります。「課題の設定」の場面においては、自然科学的なことでは、実際に植物・動物や自然現象を観察して自ら疑問を持つことが大事です。社会科学的なことでも、実際に街や里に出てみて、人々の活動を観察して疑問を持つことが大事です。「情報の収集」の場面においても、教室から外に出て、実際に目で見てデータを集めたり、人にインタビューをして実態に即した情報を集めることが大事です。もちろん時間と手間がかかることですからすべての探究活動に取り入れることは不可能だと思いますが、1年に1~2回程度のフィールドワークの機会を持つとよいでしょう。多くの学校では、社会科見学や林間学校など校外行事を行っていると思います。そういった機会を探究学習の一環として捉えて活動を見直すのが近道だと思います。

ポイントの3つ目は、学校図書館の活用です。言わずもがなですが、学校の中で一番情報が豊富なのは図書館です。図書館の活用方法を学び、図書館という場をフルに活用した「情報の収集」を行うとよいでしょう。また、司書・司書教諭の方々のノウハウをいかに活用するかも大事なポイントです。情報収集の方法だけでなく、論文の書き方やプレゼンテーションにおける表現方法など探究学習に関するノウハウがたくさん詰まっています。これを活用しない手はないです。

4つ目は、デジタルとアナログの使い分けです。近年は生徒全員がタブレット端末を持っているような学校も増えています。このようなICT機器をうまく使えば、「情報の収集」や「まとめ・表現」の場面ではかなり威力を発揮します。しかし、インターネットの情報には真贋入り混じっていますし、自分の頭で考える前に安易にネット検索してしまうのは思考力の向上を妨げます。また便利になればなるほど、その作業プロセスにあったはずの思考過程が飛ばされてしまったりもします。つまり、大事なのは、デジタルとアナログのメリット・デメリットをきちんと理解し、うまくバランス取りながら活用することです。その使い分けを学ぶ場面をきちんと織り込んでおくことが探究学習においてとても大切なことだと思います。

そして、さいごの5点目ですが、「問い」を自ら立てる活動をきちんと行っているかどうかが探究学習のポイントです。探究学習と調べ学習の違いは、「問い」を自ら立てているかどうかです。調べ学習の場合は課題が既に設定されていて、それを調べて答えを出すのですが、探究学習は、自ら疑問に思ったことを「問い」にし、それに対する「仮説」を立てるという部分が欠かせません。探究学習を行っていると言っていても実のところは調べ学習の域を出ていないという学校が多いのも現状です。

なぜ、この点がポイントなのかというと、自ら「問い」を立てて学習するということが主体的な学びにとってとても大切だからです。また、その「問い」に自ら「仮説」を立てるということが思考力にとってとても大切だからです。そして、それらの活動は、他の教科・科目の学習へも波及します。一般の科目の授業においては、教科書や板書、教師の講義によって知識を一方的に与えられることが一般的です。しかし、探究学習において主体的に学ぶ態度や自ら考える姿勢が身に付いていると、一般の科目の授業においても、いま何を学ぼうとしているのか、このことを学ぶことがどのように活きるのか、ということを自ら考えることができます。受動的な学びを能動的な学びに変えることができるのです。これが学びの本質を変えるのです。

 

探究学習は、その学習の過程において問題解決力を身に付けるだけでなく、主体的な学習態度を身に付け、すべての学習における学習効果を上げることに役立ちます。新しい高校の学習指導要領では、探究科目はすべてが選択科目で、総合的な探究の時間にも幅があるので、探究学習の機会を多くすることも、少なくすることも可能です。どの程度探究学習の時間を設けるのかは学校次第です。それぞれの学校において、探究学習の本質を理解してカリキュラムを組まれることを期待しています。

(2018年3月)

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