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スペシャル・インタビュー

一橋大学名誉教授 石倉洋子さん

スペシャル・インタビューの第2弾は、ダボス会議で知られる世界経済フォーラムの会議にご参加されるなど、海外でも国内でも活躍されている石倉洋子さんに登場いただきます。
石倉さんの最新著書『世界で活躍する人が大切にしている小さな心がけ』の内容も踏まえながら、これからの中高での教育のあり方、世界で活躍する人をどう育てるかについて、お話し下さいました。ここでは、2015年9月29日に開催された私学マネジメント協会主催定例セミナーから要旨を抜粋してお伝えします。

はじめに~アイスブレイク「最近目についたニュースは?」

様々なところで講演を頼まれると、よくやるアイスブレイクに、「参加者の方に『最近目についた/印象に残ったニュース』を聞く」ことがあります。国内外のこと、スポーツ、芸能ネタなど、挙げられるニュースのネタには、組織によって性格が出ます。自分の会社関連の内容や、自国のことが多くなりがちです。

このアイスブレイクからみなさんに考えていただきたいのは、自分の情報源はどこにあるか?ということです。新聞やテレビ、インターネット、ラジオなど様々な情報ソースがありますが、海外のニュースなどを聞いていると、報じているニュースが全く違うことに気がつきます。異なったところから情報を得ることはとても大切です。ソーシャルメディアが盛んになり、自分の友達や自身の興味に沿った情報が手に入りやすくなっていますが、それだけでは世界が狭くなっていないでしょうか?

今、世界は?

グローバル化が進んでいる世界ですが、どのような状態になっているでしょうか?

中国の不景気やリーマンショックが一気に世界に影響を与えるような、「つながる世界」でもあり、「脆い世界」でもある。変化のスピードは増す一方なので、「刻々と変わる世界」であることは間違いないでしょう。世界の政治・経済の今後は見えづらく、これまでとは違う多くのリスクがある、新しい時代。日本にいて、日本語の情報だけだと実感しにくいかもしれませんが、今までと全然違う世界になっているのです。

10年後の世界は?

2025年の世界はどうなっているか?と問われることもありますが、未来は創るものであり、全く予想が出来ないと思います。ただ、その未来の主役は今の中高生。だから教師の担うものは大きいと考えます。皆さんも、自分に影響があった人は?と考えると、自身の先生であることが多いのではないでしょうか。中高生への影響を考えると、学校だけでなく家庭の役割も大きいと感じます。コミュニティや仲間も大事です。

そのコミュニティも、私たちは過ごしてきたものとは価値観が変わってきています。家を持ちたい、車を買いたい、という発想が当たり前だったところから、シェアハウス、カーシェアリングなど新しいビジネスも出ている。企業のトップ(60代くらい)と20代の価値観は全然違うのです。ビジネスを志望する若者は、お金を稼ぎたいというよりは、世界を変えたい・影響を与えたいという価値観を持っています。

そのコミュニティも、私たちは過ごしてきたものとは価値観が変わってきています。家を持ちたい、車を買いたい、という発想が当たり前だったところから、シェアハウス、カーシェアリングなど新しいビジネスも出ている。企業のトップ(60代くらい)と20代の価値観は全然違うのです。ビジネスを志望する若者は、お金を稼ぎたいというよりは、世界を変えたい・影響を与えたいという価値観を持っています。

10年後、より良い世界を創るための力

新しい価値観の、新しい時代を生きる人材には、いくつか必要な力があります。

まずは、「自ら考える」こと。これは子どもの時からやらせて習慣づけないといけません。そして、「自分の意見・ポジションを持つ」こと。人との議論を避ける日本人は、なかなかこれをしていません。私自身、留学中に、事あるごとに「あなたはどう思うの?」と聞かれた経験があります。最初は戸惑いましたが、話をしていくうちに、彼らは今の私の意見を聞きたいだけなのだと分かりました。考えた末に意見を変更することもまったく気にしません。日本では一度決めた意見を変更することを良しとしない風潮がありますが、世界に出てみればそんなことはないのです。

また、どんな業界でも、“一流の人は、子どもにでも自分のやっていることを説明できる”と言われます。中途半端に偉そうな人は、難しい言葉ばかりの説明になるのです。世界の誰にでも理解できるよう「自分の意見を、わかりやすく伝える」ことは大切です。

加えて、「世界の誰とでも協働できる」ことも必要となってきます。これからの時代は、色々な人と、色々な活動を一緒にしていく時代です。これには、経験してみるのが一番大切。多様性を自ら経験することで、協働できる力が身についていきます。そして、前の項目ともつながりますが、「世界のどこでもやっていける」こと。「体力」が必要です。ここでいう体力は、肉体的な強さだけではなく、どんな土地でも工夫しながら何とかやっていける強さを指します。

いずれにしても、個人がそれぞれに発信し、情報にアクセスし、どんなに偉い人とでも直接コンタクトできる時代です。それが出来る自立した「個人」を育てなければいけません。

明日から私たち皆ができること

これらの力を生徒たちに身につけさせていくために、明日からでもできることを挙げます。

先生方には、子どもたちの「疑問を持つ姿勢を奨励」して欲しいです。子どもの疑問を受け止め、質問することを大切にすることで、自ら考える力がついてきます。私は大学で教鞭をとった経験もありますが、日本の学生は総じて質問をしない。質問をしてくるのは留学生ばかりです。日本人学生は、子どもの頃に「あなたはどう思う?」と聞かれた体験が、外国の学生と比べて少ないのだと思います。

そして、「常により良い方法を考える」こと。生徒もそうですが、これは先生方自身についても、時にはジャンプすることも大切です。どうせできない、ではなく、思い込みのフィルターを捨てて、できる方法を考えてください。「新しいスキルを学び続ける」ことも大切です。毎日、何か新しい、違った体験をすると良いです。例えば、通勤時間やルートを変えてみるだけで、違う体験や経験が出来、新鮮な刺激があると思います。「ちょっとやってみる!」という気持ちではじめてみることが重要です。ちょっとやってみる気持ちを起こすには「完璧主義に陥らない」必要があります。正しい答え、アプローチを求めすぎないでください。最初から完璧なものを作ろうとするのではなく、周りの意見も聞きながら少しずつ変えていく。試行錯誤の連続でよいのです。

また、「私は何者で、どこへ行こうとしているのか?」を自分自身に問うてください。日本ではあまり問われないですが、海外の子どもたちは幼い頃からこう言われて育っています。決定権が子どもにゆだねられ、子ども自身が自分で決める経験をしているのです。この自分で意思決定させることを体で覚えることが大切です。

すべての人に、存在意義があります。それぞれの価値を探し、「自分のユニークさを探す」ことが出来る人になってほしい。他人との比較ではなく、昨日より良い自分を求めるように。そして、「チアリーダー」として人を応援し、励ます立場となり、時には自分で自分を応援しながら、世界に飛び出していってほしいと願っています。

(2015年11月)

石倉洋子さん
専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材 日清食品ホールディングス株式会社、ライフネット生命保険株式会社、 双日株式会社、株式会社資生堂の社外取締役、世界経済フォーラムの Global Agenda Council Future of Jobs のメンバー。 2010 年より「グローバル・アジェンダ・ゼミナール」、2013 年より「ダ ボスの経験を東京で」など、世界の課題を英語で議論する「場」の実験 を継続中。

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