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先進校レポート

実践女子学園中学校高等学校 松下寿久先生・関孝平先生

実践女子学園は、1899年(明治32年)、女子教育の先覚者下田歌子により創立された女子校である。下田は、自ら欧米女子教育の視察を行ったり、設立間もない頃から留学生の受け入れを始めるなど、「国際派」の歴史的な先駆。その実践女子学園で本格的に始まったグローバル教育「グローバルスタディーズクラス(GSC)」がスタートして丸6年が経とうとしている。グローバル教育が叫ばれる前から着実に進めてきた実践女子学園の取り組みについて、広報部長の松下寿久先生とグローバル教育部長の関孝平先生にお話を聞いた。

実践女子学園といえば、模擬国連における活躍で有名ですね。

全国の強豪校が競う模擬国連で、平成23、24年度の2年連続優秀賞を獲得し、ニューヨークで開かれた世界大会に出場しました。日本代表として世界大会に出場できるのは6チームだけ。開成や灘、渋谷教育学園幕張などの生徒と一緒にニューヨークに行って活躍してきました。そして何と、今年の全国大会においても3年連続で優秀賞を受賞し、世界大会出場が決まりました。

模擬国連というのは、高校生たちが国連加盟国の大使に扮し、世界が直面する課題の解決に向けて他校と交渉し決議案を作成する模擬会議です。 模擬国連は英語で行いますので、高い英語力が求められるのはもちろんですが、国際問題に対する問題意識の高さや綿密なリサーチ、分析力、プレゼンテーション力や交渉力、課題解決力など、総合的な力が必要です。

まさにグローバル時代に求められる力ですね。

グローバルに活躍するためには、英語力が必要なことは確かですが、それだけでは十分ではありません。本校では、「日本が舞台であっても国際人としての誇りを持ってほしい」「国際が舞台であっても日本人としての誇りを持ってほしい」と教えています。そのためには、豊かな国際感覚と同時に日本人女性としての品格も持ってほしいと思います。自国と世界を深く理解し、あらゆる国の人々と異文化を越えて対等に良好な関係を築ける人間力を身につけほしいと考えています。その意味では、模擬国連での実績は、本校の教育の一つの成果だと思います。

実践女子学園は、古くから国際交流教育を行ってきたのですね。

本校では創立間もない明治の時代から国際交流教育の歴史があります。アジアの友好と女性の社会的自立という理念のもと、中国(清国)から多くの留学生を受け入れていました。そのような伝統を背景に、長年取り組んできた「国際教育」の名称を、2005年から「国際交流教育」と改め、交換留学などの交流プログラムを中心に据えて教育の柱の1つとしました。2007年には本格的に帰国生の受け入れを開始し、2008年に、国際学級GSC(グローバルスタディーズクラス)を設置したのです。

GSCについて詳しく教えてください。

GSCは世界で活躍できる真の国際人の育成を目指す国際学級です。ハイレベルな英語授業、音楽と美術の英語イマージョン授業、第二外国語としての中国語、全員必修の海外留学など、海外大学進学や国際貢献を視野に入れた独自の教育プログラムを展開しています。
中学入学段階で英検4級程度の英語力を求めていますが、入学してくる生徒の割合は、帰国生入試で3分の1、一般入試で3分の2です。長い海外経験のある生徒もいますので、入学時の英語力には差があります。そのため、英語授業は、A、B、Cの3レベルに分けて展開しています。Aクラスは、高い英語力を活かして大学生向けのハイレベルな教材も使用しながら、ディスカッションやプレゼンテーションなども取り入れた高度な授業を行っています。Bクラスは、海外のESL教材を使い、アカデミックな英語の習得に向けて4技能(Reading, Listening, Writing, Speaking)を総合的に伸ばします。Cクラスは早期の基礎力定着とバランスの良い4技能習得をめざし、中1では補習を含めて週8時間の授業を行っています。

英語力が元々高い生徒が多いと思いますが、GSCでは、卒業までにどのような英語力を目指しているのですか。

GSCでは「Academic English」を目指しています。つまり、大学に入学してから、英語で論文を読み、ディスカッションをして、プレゼンテーションをしたり、エッセイを書いたりするような授業に対応できる英語力を育てたいと思っています。海外大学だけでなく、今後は日本の大学でも英語で授業を行うところも増えてきます。それに耐えられるだけの英語力をつけておけば、国際舞台で活躍する重要なツールにもなりますし、もちろん、国内大学の一般入試で求められる英語力にもしっかりと対応できます。

GSCは、3ヶ月の海外留学が必修ですね。

GSCの高校1年生は全員、7月から9月までの3ヶ月間、オーストラリアのアデレードに短期留学をします。まず最初の1週間は全員一緒に語学研修を受け、その後、2~3人ずつに分かれて現地の高校に通います。ホームステイはもちろん1人ずつです。いきなり現地の高校の授業に入れられますので、最初は相当不安もあり苦労もするようです。高い英語力をもつ生徒でも、現地の口語表現や若者言葉に戸惑ったり、いろいろな苦労があるようですが、様々な困難を乗り越えることでさらなる自信につながるのです。

英語に対する自信はもちろんですが、異文化の中で人々と触れ合い、価値観や視野をひろげ、主体性や行動力、協調性や判断力など、総合的な人間力を身につけて、見違えるようになって帰ってきます。

留学が大きな学びのきっかけになっているようですね。

この多様性への寛容さや対応力というのはとても大切です。そういう意味では、これとは別にSJC(スタンダード実践クラス)の生徒も参加できる交換留学や夏休み中の語学研修など多様なプログラムがあり、毎年多くの生徒が参加しています。特に交換留学は、ドイツ、タイ、中国の提携校との間で活発に行われていて、毎年これらの国々から留学生が本校に来ています。学校にいながらにして多様な文化に触れる機会がたくさんあるということです。この制度を利用して本校からは毎年5~6名が留学しています。交換留学ですから、お互いに学費は免除、滞在費もホームステイで相殺しますので、かなり安く海外経験ができます。帰国後はその体験レポートを‘国際交流ニュース’に掲載し、全校生徒が共有できるようにしています。その他に、語学研修としての短期派遣留学や、留学機関を通じての1年間の長期留学に行く生徒も増えています。

グローバルな視野を持ち、海外をめざす生徒がGSCにもSJCにも増えているのは嬉しいですね。

GSCは第1期生が高校3年生ですが、卒業後に海外大学に進学する予定の生徒もいますか。

現高3では、GSC、SJC合わせて4名が海外大学を志望しています。海外大学は学費が高く、高い成績(GPA)も求められますので、ハードルは高いです。その中で、今年度実施した海外進学ガイダンスには、高1と高2合わせて65名もの生徒・保護者が参加し、関心の高さがうかがえました。

本校では、留学専門機関とも提携していますが、校内での海外大学への進路指導や受験対策も万全です。独自に海外大学の情報や海外大学受験のノウハウを構築し、海外進学ガイダンスや留学カウンセリングなどを実施しています。

一方で、高い英語力を身につけていますので、国内大学受験でも力を発揮します。現高3でも、すでに(取材した11月時点)AO入試や推薦入試で、早稲田、慶応義塾、上智、国際基督教、青山学院などの難関大学に合格者が出ています。

英語力以外に、グローバルに活躍するための力を身につけるプログラムはありますか。

「English Project」と「Seminar」というプログラムがあります。「English Project」は英語をコミュニケーションツールとして駆使して調べ学習、レポート、スピーチ、プレゼンテーションなどを行う授業です。中1から高2まで、毎年2~3つのプロジェクトに取り組み、創造性を育んでいます。

また、「Seminar」は、高2の英語の授業で、週に1時間、文化理論、カルチャーショック、日本文化などのテーマで学習します。少人数グループに分かれて、文献を読み、ディスカッションし、発表を行います。授業の雰囲気は大学のゼミのような感じです。言葉は相手がいてこそ生きてきます。一人で学ぶのではなく、こうしたグループ学習を行うことで、英語力が急速に高まります。

高2の冬からは「卒業プロジェクト」が始まり、高3でレポートとして仕上げ、プレゼンテーションを行います。自分で考え、積極的に意見を発言したり、プレゼンテーションを行う力が育ちます。

最後に、実践女子学園にとってグローバル人材とはどのようなものですか。

本校が考えるグローバル人材とは、単に外国語に堪能だとか海外経験が豊富だとかということではありません。ましてや、自分の価値観だけを主張して相手を打ち負かしてもそれはグローバル化とは言えません。端的に言えば、異文化や価値観の多様性に柔軟に対応できる資質を備え、世界の人々と協調して新たな価値を創造できる人材ということだと考えます。強いカリスマよりむしろ、「共にチームを組みたい人材」であるかどうかということです。

そういう意味で、本校では、グローバル社会の中で、自ら人生を切り拓いていける主体性と人間力をもった生徒、さらに、日本人としての核をしっかりと持った上で、常に世界に目を向け、多様性の中で変化を恐れず積極的に行動できる生徒を育てたいと考えています。そのためにも、中高の多感な時期にこそ、様々な多様性を経験してほしいと思っています。

ありがとうございました。

実践女子学園は、創立115年の伝統ある女子校で、礼法や華道、茶道、筝曲といった日本の伝統文化を重視しており、制服はオーソドックスなセーラー服。一見すると純和風な印象を受ける。しかし、実際は日本文化を重視しながらも、充実した英語教育やグローバル化に対応した教育を行う先進校である。また、近年の「学力改革」は目覚ましいものがあり、難関大学への合格者も急増、模擬国連などでも素晴らしい実績をあげている。

長き伝統の上にも常に新しいものを求めて改革を行うダイナミックな学校は、今後もますます形を変えながら発展していくだろう。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之
2013年11月取材

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