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先進校レポート

関西学院千里国際中等部・高等部 校長 眞砂和典 先生

関西学院千里国際中等部・高等部(SIS)は1991年、大阪府に設立され、2010年の法人合併により現在の校名になった。大阪インターナショナルスクール(OIS)と併設され、一つのキャンパスに帰国生徒、一般生徒、外国籍生徒がほぼ3分の1ずつの割合で在籍する多文化融合の学校である。インターナショナルスクールとの併設により、真のグローバル教育を可能にする学校として、いま注目を集めている。校長の眞砂和典先生にお話を聞いた。

インターナショナルスクールとの併設というのは珍しい形態ですね。

SISとOISは、開設以来「一体である」という信念を持って教育をしてきました。建物や施設だけでなく、ビジョンやミッションも共有しています。具体的に言うと、図書館やグラウンドなどほとんどの施設を共有して使っています。図書館は、洋書3万冊、和書3万冊余りという蔵書になっており、洋書と和書がすぐ隣に配列されているようなレイアウトになっています。教室も、ある程度は区分してありますが、建物としては一体なので、SISとOISの生徒は日常的に混ざり合って生活しています。実際に、廊下を歩いていると、日本語と英語の両方が飛び交っています。日本人生徒からすれば、常に自然とイマージョン環境にいることになります。

SISとOISは併設というより、混じり合っているのですね。

体育祭(スポーツデイ)や文化祭(スクールフェスティバル)などの行事も、放課後のクラブ活動も合同で行っています。ネイティブの先生がクラブ顧問をする場合もありますので、英語で指導が行われたりもします。
また、「シェアードプログラム」といって、授業も合同で行われる場合があります。美術、音楽、体育などは、OISと合同でネイティブの英語による授業になります。

SISでも英語の力がつきますね。

OISは、国際バカロレア(IB)の認定校です。幼稚園、初等部から中等部、高等部まで、IBのPYP(初等教育部門カリキュラム)、MYP(中等教育部門カリキュラム)、DP(大学進学資格部門カリキュラム)のトータルの認可を日本で初めて受けた学校です。そのようなレベルの高いインターナショナルスクールと授業を共有できるのは非常に恵まれています。

また、SISは今年度から全国に5校しかないIB研究指定校になっており、OISの授業を共有することにより、SISの生徒でもDPが取得できるようになりました。SIS自体がIBの認定校になることはいまのところ考えてはいないのですが、IBカリキュラムの良いところは積極的に取り入れていこうと研究を重ねています。

SISには帰国生がたくさんいますね。

元々帰国生を受け入れることを目的につくられた学校ですので、帰国生は全生徒の半分を占めています。帰国生の中には、英語圏で現地校やインターナショナルスクールにいた子も多いので、入学時の英語力の差はかなり大きいです。そのため、英語は、初めて英語を学習するスタンダードレベルから、ネイティブレベルまでの5段階に分けています。

SISの英語教員の半数以上はネイティブです。英語はスタンダードレベルでも、中1・中2で2時間、中3以降は5時間がネイティブ教員による授業です。帰国生ではない一般生でも、英語力がかなりつきます。

海外大学へ進学する生徒も多いですね。

昨年度卒業生では11名が海外の大学へ進学しました。全卒業生の1割以上です。海外大学進学者の中には、帰国生ではなく一般生も3分の1以上含まれています。

大学進学のことでいうと、関西学院大学の系列校になりましたので、年々内部推薦枠が増えています。現在50名です。しかし、その枠すべてを使い切っていません。推薦枠で関西学院大学に進学した生徒は昨年度は26名でした。その他の生徒は他の国公立大学、私立大学へ進学しています。

いわゆる難関大学へかなり多くの生徒が進学していますね。

本校は、大学入試対策のような授業はあまりしていません。むしろ、そういう学校とは対極にある学校だと思います。しかし、授業の中で考える力を養っていますので、そういったことを試される試験には強いと思います。AO入試で難関大学に合格する生徒も多いです。

考える力をつける授業とはどのようなものでしょうか。

本校では、インターナショナルスクールを併設していることもあり、いわゆる日本式の知識伝達型の授業ではなく、欧米式の自ら考える授業を展開しています。中学1年生から、ある課題が与えられ、それを自分で調べ、まとめて、発表するという授業を行います。理科でも実験・実習がとても多いです。授業に生徒同士のディスカッションやディベートなども取り入れ、生徒が能動的に参加するアクティブ・ラーニング型の授業を展開しています。文部科学省が行う全国学力テストでは、国語、数学とも本校は全国平均よりも高いのですが、特に、国語B、数学Bという知識活用力を問う問題の点数がかなり高く出ました。つまり、考える力が全国平均よりもかなり高いレベルだったということです。

知識量ではなく考える力を身につける授業をするとなると、成績評価はどうするのですか。

本校には、中間考査や期末考査のような評価のための定期試験期間はありません。生徒の評価は、小テスト、提出物、発表など平常点の割合が大きくなります。この授業ではこのような点を評価しますよ、と予め生徒には伝えておき、評価をしていますので、不公平感などはありません。

高校のカリキュラムがかなり特徴的ですね。

そもそもは、帰国生が一年を通じて様々な時期に入学して来ることに対応して導入されたのですが、「学期完結制」という仕組みになっています。1年間を60授業日ごとの春学期・秋学期・冬学期という3つの学期で構成し、その中で科目内容が完結するようになっています。つまり、通常週1時間で1年間行う科目は、本校では1学期間に3時間授業をして完結させるということです。このことで、どの学期から途中編入しても年度のはじめのようにスタートを切れるようになります。そもそも欧米ではこのように学期ごとに集中して学習する方がスタンダードです。グローバルに見たら特殊というわけでもないですよ。

時間割がかなり複雑になるのではないでしょうか。

高校生はほとんどの授業が選択式になります。自分の興味や進路に合わせて科目を選択します。授業は「無学年式」なので、高1から高3までが混ざって授業を受けるものもあります。なぜなら、高校2年生で帰国してきた生徒のとるべき授業がその学年に収まっているとは限らないからです。

高校生は1人1台iPadを持っています。それを使ってオンラインで履修登録をします。必修科目に履修漏れがないか、単位が不足していないかなどの確認はコンピュータがチェックしてくれますので未履修などの問題は起きません。

実は、この自ら授業を選択するということは、授業に対して受け身ではなく能動的になるというメリットを生んでいます。授業に対するモチベーションが上がりますので、そこで得るものも多く、学力向上につながっています。

授業が充実するのですね。

実は、ほぼ全ての授業が選択式ということは、教員が生徒に選ばれているということでもあります。つまらない授業をする教員の授業は誰も選択しなくなります。教員側も面白くて為になる授業をしなければならないという意識向上につながります。先ほど言った能動的な授業ということもあいまって、生徒たちは授業が楽しいと口々に言います。楽しい授業をしなければ学力も上がりません。

楽しいと言えば、行事予定にある「不思議ウィーク」というのは何ですか。

それは、スクールフェスティバルの1週間前は、楽しいことをしようと、変わった取り組みをしているんです。例えば、「明日はパジャマ・デイ」と言えば、生徒も教員も学校にパジャマを持ってきて、着替えてから授業をするんです。

面白いですね。インターナショナルスクールの雰囲気ですね。それでは、最後に、先生にとってグローバル人材とは何か、お聞かせください。

やはり、世界的な視野で自分で考えて、周りを説得して行動できる人ですね。いま日本の教育システムは限界に来ていると思います。それは、東大を頂点とする大学入試を目標にして勉強をする教育のあり方のことです。国内だけで内向きの競争をしていてはダメです。日本そのものがグローバルな競争力を失いつつあります。その中で一番を競っても意味がありません。もっと広い世界に目を向けて学習することが大切です。

SISでは、多様性を重んじます。世界各国から帰国生が入学してきます。そして、OISには様々な国籍・人種の生徒がいます。学校に居ながらにして世界を感じることができる素晴らしい環境が整っています。小さくて目立たない学校ですが、グローバルを意識する生徒にはぜひ入ってきてほしいですね。

ありがとうございました。

文部科学省の中央教育審議会の専門委員でもあった眞砂校長先生は、いまの日本の教育の限界を訴えている。一方通行の授業ではなく、コミュニケーションを主体とした授業への転換が必要で、そのためには少人数クラスにすべきだと。

実際、SISでは最大でも26名(平均18名)の少人数制をとっており、教員と生徒、生徒同士のコミュニケーションも活発だ。インターナショナルスクールとの併設という特別な環境も功を奏して理想の教育環境を作り出すことができているのが、ここ関西学院千里国際中等部・高等部ではないだろうか。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 所長 松原和之
2013年10月取材

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